法的合理性問われるデブリ取り出し断念案―【尾松亮】廃炉の流儀 連載32
8月25日、東京電力は、2022年後半に取りかかる計画だった福島第一原子力発電所2号機の溶融燃料(デブリ)取り出しの時期について、23年度後半に延長することを発表した。デブリを取り出すロボットアームの改良、放射性物質が飛散するのを防ぐ装置の損傷、などが延期理由だ(8月25日付日経新聞)。「40年後廃炉終了」を目指す1Fロードマップの当初スケジュールでは、21年には取り出しを開始する目標であった。それが昨年、コロナ感染拡大を理由に22年後半に延期された経緯があり、今回で延期は2度目となる。
それでは再度取り出し時期を延期し、追加の対策を打てば、デブリ取り出しは進むのか。
9月28日、日本テレビのインタビューに答えた更田豊志前原子力規制委員長(同日に5年の任期を終えて退任)は次のように述べている。
「すべての放射性物質を取り出すとか、ゼロにするということは、技術的にはなかなか考えにくくて。できるだけ量を減らす努力はするけど、あとは現場をいったん固めてしまう、安定化させてしまうということは、現実的な選択肢なんだと思います」
燃料デブリについて、「これらをすべて取り除くことはできず、原子炉建屋の底部については、その場でいったん固めるのが現実的だ」と更田氏は述べている。つまり、取り出し開始時期の延期を繰り返したとしても、燃料デブリの大部分を取り出すようなことは「技術的には考えにくい」というのだ。
更田氏は以前から「燃料デブリを取り出さない選択肢」をほのめかす発言をしてきたが、今回の発言は一歩も二歩も踏み込んでいる。退任して現職規制委員長としての責任が問われなくなったとたんに表明した考え方である。これが規制当局責任者の本音、国の側の既定路線であることが読み取れる。東電としては実現性の不明な「デブリ取り出し完遂」や「原子炉解体」を免除されることになり、1F廃炉に関わるリソースを柏崎刈羽原発の再稼働に振り向けることができる。経営陣の観点からは、とても有りがたい提案だろう。
今後さらなる延期を繰り返しながらも、「デブリの一部取り出し」にはチャレンジするのだろう。しかしそれはサンプル抽出のような規模にとどまり、残りの溶融燃料は損傷した原子炉内外で「固められる」というのが、水面下で描かれている展望らしい。
この更田提案(デブリはその場で固める=通常の廃炉はしない)に技術的合理性があるのだとしても、もう一つ問わなければならない合理性がある。それは法的合理性があるのか、ということだ。「デブリが取り出せない」と認め、取り出さない選択肢を承認するなら、それは「原発事故が起きても後始末は完遂できない」という事態の追認だ。
後始末を途中で放棄する(技術的にせざるを得ない)事業者に電力事業継続を認めるのは法的に筋が通っているのか。固めたデブリを包含する原子炉施設の「未来永久の安全管理」責任は、法的に誰が負うのか。まさか東電は原発運転継続を認められ、燃料デブリが固められた施設の管理は自治体責任などということはあるまい。法的合理性のある説明を求めなければならない。
おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。
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