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【福島県いわき市】本格始動いわき駅前再開発の前途

いわき駅前再開発の前途

 いわき市平地区のJRいわき駅前では2年前から中心市街地再開発が進められている。今年7月には目玉事業となるタワーマンション建設に関する再開発組合が正式に設立され、いよいよ建設に向けて本格的に動き出した。これからどのようなまちづくりが進められ、どのような効果が期待できるのか、あらためて現状を調べてみた。

いわき市中心市街地写真:再開発が進むJRいわき駅前

 中心市街地活性化計画は中心市街地活性化法に基づき策定されるもので、内閣総理大臣(内閣府)に計画が認定されると、対象事業が法律、税制の特例や補助金などの支援を受けられる。

 同市の中心市街地であるJRいわき駅前は以前から、定住人口減と高齢化によるコミュニティーの弱体化、商業の活力低下などが問題視されてきた。居住人口は2008(平成20)年4612人から2016(平成28)年4133人に減少。小売業年間販売額に至っては1997(平成9)年627億円から2014(平成26)年247億円と350億円以上落ち込んでいる。また、城跡や図書館などの歴史・文化施設が集まるエリアなのに、住民の関心が低いことも大きな課題となっていた。

 こうした状況を改善するため、2015(平成27)年度から市が中心となって商工会議所やまちづくり会社、地元企業、住民などと協議し、2016(平成28)年度内に同計画の策定を完了。同年度末に内閣府の認定を受けた。計画期間は2017(平成29)年4月から2022(令和4)年3月までの5年間。

 対象となっているエリアは、南北がJRいわき駅周辺からいわき市役所南側を流れる新川まで。東西はいわき芸術文化交流館アリオスなどの前を走る都市計画道路田町谷川瀬線からイトーヨーカドー平店の前を通る県道26号小名浜平線まで。区域面積は約116㌶。

 同計画の基本テーマは「人、暮らし、文化を大切にする豊かさと活力とを備えた中心市街地」。具体的な目標として①生活環境の充実によるまちなか居住の促進(居住促進)、②新規出店の促進による事業活動の活性化(新規出店促進)、③歴史・文化資源を生かした賑わいの創出(歴史・文化振興)――を掲げ、民間・行政主体の57事業を盛り込んだ。

 要は、官民一体の再開発により人口と店舗を増やし、歴史・文化のまちづくりを進め、中心市街地のにぎわいを創出しようとしているわけ。

 具体的にどのような事業を行うのか。現在進められている主な事業は別表1の通り。

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 中でも目玉事業は、②いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業だろう。いわき駅南口前から西側に向かう国道399号・通称並木通り(都市計画道路搔槌小路谷川瀬線と重複)沿いにはいわき民報本社や飲食店、市営駐車場などが立地しているが、駅前のわりに小さくて古い建物が連なっており、有効な土地利用が課題とされていた。そこで並木通り一帯1・2㌶の土地にマンションや商業・医療機能を備えた施設、道路を一体的に整備しようという事業だ。地権者らが2014年から準備を進め、今年7月には、地権者らで構成されたいわき駅並木通り地区市街地再開発組合(野沢達也理事長=いわき民報社長)の設立が知事から認可され、正式に設立された。

 基本設計によると、区域は東西に分けられ、東側の「街区1」には地下1階地上26階建ての住宅棟(144戸、1階部分店舗スペースあり)と、商業・業務・サービス機能・屋上庭園を備えた2~4階建ての商業棟、市営駐車場・駐輪場や住民の駐車場が設置された立体の駐車場棟が整備される。

 当初の構想によると、商業棟は並木通り沿いの既存店に加えクリニック、スポーツクラブ、公共施設の出先機関、オフィスなどの入居を想定しており、いわき民報本社は別の場所に移転する見通し。

 西側の「街区2」にはシニア向け共同住宅として地下1階地上24階建ての住宅棟(151戸)と住民向けの立体の駐車場棟が建てられる。併せて並木通り沿いに歩道を整備し、区画道路を拡幅する。2022(令和4)年3月末までの完成を目指す。

 事業協力者には、平地区で新築マンションを販売した実績があるマンション専業デベロッパーのフージャースコーポレーションが選ばれた。建築基本設計担当は東畑建築事務所、実施設計や施工などを一括で担当する特定業務代行者は熊谷組が優先交渉権者に決定し、現在、基本協定締結に向けて協議を重ねている。

「ヨーカドー撤退はない」

 もう1つの目玉事業は、イトーヨーカドー平店が入居する施設を新たに建て替える⑤地域密着型商業施設整備事業だ。

 同店は1971(昭和46)年オープンで、土地と入居する建物は同市の不動産業者・真砂不動産(猪狩達宏社長)が所有・管理している。ただ、近年建物の老朽化が進み、耐震的にも機能的にも限界が来ているため、建て替えを検討していたところ、中心市街地活性化基本計画に組み入れられた。

 もっとも、イトーヨーカドーでは3年前に一部不採算店舗の閉店を発表しており、それ以降、同店は「閉店候補の一つ」と目されている。インターネットでは同店が「2020年に閉店する」と断言している記事がヒットするほどだ。本誌2017年2月号では猪狩社長が「多くの人に利用してもらえる施設を建てることでイトーヨーカドーの出店継続の確率を高めている」と話していたが、その後計画はどのように進んでいるのか。あらためて猪狩社長に話を聞いたところ、次のように述べた。

 「施設に関しては現在もまだ協議中ですが、前回取材時とは異なり、かなり細かいところまで話し合っており、イトーヨーカドーを運営するセブン&アイ・ホールディングスにも積極的に意見を出してもらっています。ただある程度具体的に計画が固まらないと公表できません」

 一部新聞報道によると、現在同店の駐車場は道路を挟んだ反対側に立地しているため、この道路を迂回させ店舗・駐車場を一体化させる案も検討されているとのことだが、猪狩社長はそのことも含めてヨーカドー側と協議中であることを認めた。

 「『売上が厳しいようなので撤退するのではないか』というウワサが飛び交っているのは承知しています。ある新聞には一度も取材に来ていないのに撤退を断定的に書かれ、道端で『閉店するらしいよ』とウワサしているのが聞こえてきたこともありました。ただ、現段階で閉店することはないと思います。と言うのも、売上不振であれば、閉店する前に少し賃料を下げてほしいという話を持ちかけられるはずですが、そうした話は一度もありません。また、実際に閉店する場合、地権者には2、3年前の時点で伝えられると聞きましたが、現時点でそうした話はされていません」(同)

 つまり、イトーヨーカドーは建て替えに関する協議に積極的に参加し、賃料値下げなどの打診も一度もないことから、現実的に考えて撤退はないと判断している、と。そういう意味で実現の可能性は高まってきたと言えるが、現時点でまだ概要すら発表できない段階であるということを考えると、計画期間の期限である2022(令和4)年3月までにオープンするのはかなり厳しそうだ。

 ちなみに本誌2017年2月号記事では猪狩社長のコメントとして、イトーヨーカドーと併せてシネコンや医療・介護機能や子育て支援機能、スポーツクラブなどを誘致する案が出ていることを紹介した。

 当時はイオンモールいわき小名浜のオープン前で、いわき駅前の映画館・ポレポレいわきがどう動くかが注目されていただけに、特にシネコンに関して話題が集まっていた。

 ただ、現在はイオンモールいわき小名浜に1店舗(ポレポレシネマズ いわき小名浜)、平地区に1店舗(まちポレいわき)の映画館があり、飽和状態になりつつある。加えて、映画館関係者によると、「シネコンで採算を取るためには集客しやすくするため、広大な駐車場を作る必要がある」とのことなので、同施設へのシネコン進出は簡単ではなさそうだ。

スーパー進出のウワサ

 話題と言えば、一部経済人の間で、大手食品スーパーがいわき駅前に進出するのではないか、という話も囁かれている。候補地と目されているのは前出・いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業で整備される商業棟だ。

 これには伏線がある。イオンモールいわき小名浜開店後の小名浜地区では商業施設間の生き残りを賭けた競争が激化しており、ヨークベニマルが小名浜リスポ店をオープンし、既存店の小名浜店をリニューアルした。一方、同地区内に4店舗を出店する地元スーパー・マルトは君ヶ塚店の近くのケーズデンキ小名浜店跡地を取得し、その活用方法が注目されている。

 このような中、いわき駅前に商業スペースが現れたため、ベニマルかマルトが進出するのではないかと囁かれているのだ。

 同組合関係者によると、同組合が小売店誘致を模索しているのは事実のようで、実際、両社に接触し都市型小型店の出店について情報収集している模様だ。

 とは言え、イトーヨーカドーが近くにあるのに同じ系列のヨークベニマルが出店するとは考えにくいし、マルトは駅前から少し離れているものの、マルトSC城東店という大型店が立地しているので現実的ではない。そのため本格的には進んでいないようで、ヨークベニマル、マルトの広報部に確認したが、どちらも「全く把握していない」という回答だった。どうやら「『駅前にこんな店舗があったら便利だし住みやすい』という案の1つ」(地元報道関係者)がウワサとして広まったようだ。

 前述した通り、小名浜地区では商業が活性化した一方で、「少ない買い物客を多くの店舗で奪い合っている状況」と揶揄する声も聞かれる。

 イオンモールいわき小名浜に関しては本誌昨年11月号でも触れた通り、平日の集客に苦戦しており、当初予想されたほどの〝1人勝ち〟とはなっていない。では、周辺の店舗が好調かというとそういうわけでもなく、商店街の飲食店が閉店したり、競合店舗に空きテナントが出ている様子が見られる。要するに、供給過剰になったことでかえって衰退させてしまった面がある、と。

 それだけに、人口増加と商業促進に一体的に取り組み、需要を確保しながら再開発を進めていくという同計画の成否が注目される。

 同計画は数値で明確な目標を定め、1年ごとにフォローアップを行うよう定められている。同市においては冒頭で紹介した3つの具体的目標を達成するため、①中心市街地内の居住人口、②中心市街地内の新規出店数、③主要歴史・文化施設の入り込み客数の目標値を定めている。

一丸になって進められるか

 今年5月に発表された昨年度分の結果は表2の通り。③主要歴史・文化施設の入り込み客数が基準値を下回ることになった。ただ、これは市文化センターが耐震工事により業務停止していた影響であり、市では今後前述したようなさまざまな事業を展開していくことで達成可能だと見込んでいる。とは言え、マンション販売や商業棟へのテナント誘致、セブン&アイ・ホールディングスとの交渉がうまくいかなければ、目標達成は困難になる可能性もある。

 そういう意味では成功の鍵を握るのは浜通りの経済復興だと言えよう。東電福島第一原発で進められている廃炉作業や福島イノベーション・コースト構想、同市内で推進されているいわきバッテリーバレー構想などが順調に進めば、経済が盛り上がり、人が集まる。そうすることで交流人口・定住人口が増え、同市中心市街地の需要が高まる。

 避難者や復興作業員などの住宅需要により起きた不動産バブルは住宅需要の一巡により弾けたが、未だ約2万人の避難者が同市に住んでいるとされ、これまで不動産購入を控えていた市民の住宅需要も高いとみられる。もともと同市の中心市街地は福島市や郡山市に比べマンションなどが圧倒的に少ないと言われてきた。

 いわき駅並木通り地区市街地再開発組合ではこのあたりの需要や経済情勢の変化を見極めようとしているようで、現在、コスト低減や計画変更も見据え、本格着工に向けて、熊谷組と協議を進めている。

 いわき駅南口では、飲食店や物販店を備えたJR系列の220室のホテルが建設される計画も進んでおり、早ければ2022(令和4)年4月にオープンする。市の中核エリアの風景は大きく変わりそうだが、平地区以外の市民や経営者は「平地区の話でしょ」といまいち関心を持っていない様子。磐城平城本丸跡地の公園整備に伴いやぐらの復元が検討されたことについての反感もあって、平地区以外では計画の推移をかなり冷ややかに見ているようだ。

 一方の平地区の経営者からは「市は中心市街地での民間イベントなどに非協力的で、催し物をやるのにも一苦労する」といったボヤキも聞かれる。そういう意味で、市と市民がいかに一丸となってまちづくりに取り組んでいけるかが再開発の今後の課題となりそうだ。


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