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野党の課題は発信力アップ―【横田一】中央から見たフクシマ96

(2021年12月号)

 福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に邁進した安倍元首相に忖度する“岸田傀儡政権”が10月31日投開票の総選挙で261議席を獲得、全常任委員会で委員長独占と委員の過半数を占める絶対安定多数を確保した。一方、原発ゼロを野党共通政策に盛り込んだ立憲は議席増が見込まれていたのに14議席減となり、枝野幸男代表は辞任した。安倍・菅政権で続いた原発推進政策は、今後も維持されることになってしまったのだ。

 総選挙から3週間後の11月21日、脱原発を訴える全国講演行脚を続けている小泉純一郎元首相は「奇跡のバックホーム」で有名な松山商業野球部OBの招きで愛媛県松山市のホテルで講演、囲み取材にも応じた。

 そこで私は、10月9日の気仙沼講演(先月号で紹介)の時と同じ主旨の質問をした。総選挙の公示が迫るタイミングで小泉元首相は「原発ゼロを野党が強調、公約のトップにあげればいい。そうすれば、岸田政権と野党の違いが明確になる」と発言していた。これを思い出しながら私は「総選挙中に野党がもっと『原発ゼロ』を強く訴えれば、少しは結果は違ったと思うか」と聞いてみたのだ。小泉元首相はこう答えた。

 「そうだと思う。やっぱり原発会社の労働組合が野党を応援しているから、なかなか言いにくい事情があるのだが、野党がまとまって『原発ゼロ』を訴えていれば、結果は違っていたと思う」「野党は原発の労組があるから争点にできない」。

 まさに正論だ。野党共闘の基本的枠組みは出来ていたのに連合への配慮で十分に活用せず、一大争点にならなかったことが問題だったのだ。

 確かに野党4党(立憲・共産・社民・れいわ)が合意した共通政策には「原発のない脱炭素社会の追求」と明記されていたが、「原発推進の自民党」対「原発ゼロ追求の野党連合」という構図がはっきりと示されることはなかった。本気で脱原発を大きな争点にするのなら、枝野幸男代表と志位和夫委員長と福島みずほ党首と山本太郎代表が並んで、原発ゼロを含む共通政策を訴えるべきだった。しかし実際には、こうした野党合同街宣が実現することはなかった。

 総選挙後、「共産党との選挙共闘が立憲敗北の原因」との指摘が相次いでいるが、政権交代を遠のかせる意図的発言(世論誘導)である可能性が高い。政権寄りのメデイアが、野党共闘で冷や汗をかいた自民党に都合にいい発信をしているともいえるが、今回の野党共闘が小選挙区での勝率向上に貢献、甘利明幹事長(当時)や石原伸晃元幹事長を破る大金星をもたらしたことは紛れもない事実なのだ。今回の敗因は、共産党を含む野党共闘自体ではなく、原発ゼロ追求を含む共通政策のアピール不足であることは明らかなのだ。

 注目すべきは、れいわ新選組の事前の想定以上の3議席獲得だ。政権交代で消費税5%減税(共通政策の一つ)を実現しようと熱く訴える山本代表の発信力は、枝野代表を大きく上回った。この違いが、そのままれいわと立憲の明暗を分けた。

 野党の課題は発信力アップであって、共闘の枠組み見直しではない。自民・公明が総選挙で繰り返した「立憲共産党」といった批判を跳ね返すには、「自衛隊や日米安保に関する共産党の綱領は共通政策には入っていない」と反論すると同時に、政権交代により原発ゼロを含む共通政策が実現すると訴えることが不可欠だったのだ。

 立憲の新代表が総選挙の敗因をきちんと分析し、野党共闘の枠組みを維持するのかが注目される。多くの福島県民が望む原発ゼロの実現可能性を左右することにもなるからだ。

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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