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【政経東北】誘致合戦より合併を議論せよ―巻頭言2022.6

 政府が浜通りに整備する「福島国際研究教育機構」の誘致に、原発被災自治体が名乗りを上げている。

 復興庁が発表した基本構想によると、《福島をはじめ東北の復興を実現するための夢や希望となるものとするとともに、我が国の科学技術力・産業競争力の強化を牽引し、経済成長や国民生活の向上に貢献する、世界に冠たる「創造的復興の中核拠点」を目指す》ことを目的としている。

 ➀ロボット、②農林水産業、③エネルギー、④放射線科学・創薬医療、⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信――の5分野の研究開発を進める機関で、研究内容の産業化や人材育成、既存施設の司令塔の機能を持つ。世界水準の設備を整備し、国内外の優秀な研究者が数百名参画する。施設は10万平方㍍程度。立地場所は市町村の提案を踏まえた県からの意見を尊重し、国が9月までに決定する。

 県が意向表明を求めたところ、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町の9市町が誘致に名乗りを上げた。現段階ではどこが有利か判然としないが、各市町とも「復興の起爆剤」となることを期待しているのだろう。

 しかし、この間浜通りで進められている福島イノベーション・コースト構想を見る限り、県内の既存産業の振興に大きく貢献しているようには思えず、現時点では「国が推し進める重点事業を切り貼りした組織」(ある大学教員)という印象しかない。原発を誘致したことで苦境に立たされているのに、経済的効果を期待して、我も我もと誘致に手を挙げる光景には脱力させられる。

 同機構を誘致したところで、原発被災自治体が直面する課題は変わらない。今後、廃炉作業は100年かかるとされ、汚染水は日々敷地内に溜まり続ける。中間貯蔵施設に搬入された除染廃棄物は2045年までに県外で最終処分するために必要措置を講ずると法律で定められているが、新たな場所を探して大量のダンプで運び出すことを考えると、現実的とは思えない。

 一世帯200万円というベラボーな支援金を出して、移住者を募る施策も実施しているが、こうした場所にどれだけの人が移住してくるだろうか。原発被災自治体としては、「帰還してやり直したい人もいるだろうから、一度復興まちづくりをやらせてほしい」ということなのだろうが、そのために多額の税金を投じるのはナンセンスだ。「おらが町」への誘致より、双葉郡の未来について、合併も含めて議論すべきときではないか。

(志賀)


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