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【政経東北】住民置き去りの復興―巻頭言2022.3

 東日本大震災・東京電力福島第一原発事故から丸11年が経過する。

 津波で被災した沿岸部や道路、橋梁などのインフラ復旧はほぼ完了した。県内にばら撒かれた放射性物質は除染や半減期・風雨による減衰で放射線量が低減しており、普段生活する上で影響を意識する機会もかなり減った。

 ただ、復興に関する課題は山積している。

 線量計を持って除染が行われていない山間部を歩くと、いまでも驚くほど高い数値が表示されるときがある。地図や看板などで高線量エリアを示すなどの対策は講じられていない。

 国は、希望者はできる限り原発被災地に帰還させる方針を示し、多額の国費を投じて除染を行い、住環境を整備している。多くの住民はすでに避難先で新たな生活を始めているにもかかわらず、だ。

 県内ではイノベーション・コースト構想や再生可能エネルギー関連産業・医療産業の集積が進められているが、その恩恵にあずかれない企業が大半。東電による賠償は適正とは言えず、多くの事業者は被害が継続していたのに打ち切られた。

 外から見ると順調に見えるかもしれないが、実際はいびつで不公平な復興が進められており、軌道修正できないまま時間だけが過ぎている印象だ。

 いまこそ住民の意見を聞きながら、復興や原発収束作業の進め方などを調整していく必要があるが、現実はそうなっていない。

 象徴的なのが汚染水問題だ。国と東電は汚染水が入ったタンクが敷地を圧迫するとして、来年春ごろに海洋放出する方針を打ち出している。住民からは放射能汚染や福島県産品の売り上げ低下などにつながるとして反対意見が出ている。にもかかわらず、方針を決定した理由について、国は「県内外で説明会や意見交換を数百回行ってきた結果を踏まえた」としている。しかし、本誌記者が見た説明会では一方的に国や東電の考えを説明するだけで、住民からの反対意見には、ひたすら反論して理解を求めていた。要するに、国にとって説明会は「住民の話を聞いた」というアリバイ作りに過ぎなかったわけ。

 災害前の環境・生活には二度と戻れない。そうした状況では、少しでもかつての生活を取り戻せるように、現実を見据え、最善の手を尽くすしかない。そのために明確な方針を打ち出し、住民をサポートしていくのが行政の役割のはずだが、現実はそうなっているとは言い難い。どちらを向いて仕事をしているのか、役人たちは考える必要がある。  

 (志賀)




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