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【政経東北】県民を分断するもの―巻頭言2023.3

 政府は1月27日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを、「5類」に引き下げることを決定した。発生初期と比較して重症化率や致死率が低下したことを受け、議論が進められていた。移行日は5月8日。季節性インフルエンザと同等になり、感染者や濃厚接触者の外出自粛要請は撤廃。マスク着用も個人の判断に委ねられる。

 いわゆる集団免疫が得られたとは言い難く、感染への不安は強く残っているが、コロナ禍前の社会生活に戻ろうとする動きは一気に加速しそうだ。

 2月4日に行われた国道294号白河バイパス開通式で、福島3区を地盤とする自民党の上杉謙太郎衆院議員(2期、比例東北ブロック)は「やっとコロナも終わるわけであります」と断言した。国は5類移行を事実上の〝安全宣言〟と捉えており、コロナ禍を〝終わった話〟にしたいということだろう。今後は5類移行により社会の平常化・経済再生加速を喜ぶ意見と、感染者・死者数増加を懸念する意見で分かれ、分断が進むのではないか。

 既視感を抱くのは、福島第一原発事故後の福島県も、県民が分断されてきた経緯があるからだ。

 原発事故直後、当時の民主党政権は「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」と説明したが、放射能汚染の深刻度や県外避難・帰還の是非などをめぐりさまざまな意見が飛び交った。福島第一原発からの距離や汚染状況によって区域・地点を定めたことで、賠償金額や支援内容に差が生まれた。除染や復興まちづくり、子どもの甲状腺がんについての考え方も分かれている。

 24頁の記事で解説している通り、賠償基準の見直しが行われ、追加賠償金が支払われる。地域によっては強い不公平感を抱く人もいるだろう。

 国・東電は福島第一原発敷地内に溜まった汚染水(ALPS処理水)を海洋放出する方針を打ち出している。トリチウム以外の放射性物質も微量ながら含まれていること、健康被害を懸念する声もあること、県内の水産業、農業、観光業などに打撃を与えかねないこと、外交問題に発展する恐れがあることから本誌は反対のスタンスを取っている。一方で「トリチウムを含む水は海外の原発でも放出されている」として海洋放出を支持する声もある。

 住民を交え、時間をかけて議論すべきことが次々と決定され、既成事実化していく。県民の分断は進み、一つにまとまって国(東電)の対応の問題点に意見を述べようとする機運が失われていく。それこそが国(東電)の狙いなのだろう。(志賀)

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