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横田一の政界ウォッチ⑦

参院選の焦点は物価高対策


『政経東北』2022年7月号より

 6月22日に公示された「参院選(7月10日投開票)」で、有権者が最も重視する政策に急浮上したのが物価高対策だ。「物価高と戦う」「生活安全保障」をキャッチフレーズにする泉健太代表率いる立憲民主党は「岸田インフレ」と命名して「(円安を招いた)アベノミクスを見直さないのか」と追及。共産・社民・れいわと共に消費税減税も求めている。6月1日の予算委員会でれいわの大石晃子衆院議員が、消費減税を否定した岸田文雄首相を「財務省の犬」「資本家の犬」と一刀両断にしたのもこうした流れの一環だった。

 これに対して岸田首相は公示4日前の18日、自民党山形県連大会で挨拶、山形駅前でも街頭演説をしたが、「世界規模の物価高はウクライナ侵攻が原因」「有事における物価高騰だ」と外的要因ばかりを強調、円安加速を招いている金融緩和(アベノミクスの柱)を見直す姿勢は全くなかった。そこで街宣後、山形駅に向かう岸田首相に「『岸田インフレ』と言われていますよ。金融緩和、見直さないのか。円安加速で物価高になるのではないか」「『資本家の犬』と言われていますよ」と大声を張り上げたが、無言のままだった。

 “安倍忖度政権”とも言える岸田政権の限界を見る思いがした。物価高対策でも、諸悪の根源ともいうべきアベノミクス見直しに踏み込めない弱腰が浮き彫りになったのだ。

 立民の小西洋之参院議員は5月30日の参院予算員会で、「現在の物価高騰はアベノミクスインフレだ」と指摘。このままでは「岸田インフレ」になるとして金融緩和の見直しを求めていた。

 「(物価高は)もちろんエネルギー問題もあるが、輸入物価全体で3分の1は円安の影響だと岸田首相も認めているわけだから、(金融緩和の推進を掲げる)『政府日銀の共同声明』を見直す気がないのであれば、異次元の物価高騰は『岸田インフレ』と言うべき失策ではないか」

 まさに正論だ。アベノミクスが物価高を招く弊害(副作用)については、第二次安倍政権が誕生した2012年12月当時から指摘されていた。『デフレの正体』『里山資本主義』で有名な藻谷浩介氏は、「安倍の円安政策は日本を滅ぼす」と銘打った2012年12月4日付の日刊ゲンダイの記事でこう批判していた。

 「お隣の韓国では、ウォン安で原油購入代がかさんでガソリン代などが値上がりし、国民の不満が高まっています」「円安になれば燃料輸入額は増え、ガソリンや灯油も値上がりします。円高、円安にはそれぞれメリットデメリットがある。目下の日本では円高の方が大多数の日本国民にとってプラスです」

 しかし当時の安倍政権(首相)は藻谷氏の警告に耳を傾けず、黒田東彦日銀総裁を抜擢して異次元金融緩和に邁進、円安加速で国民が物価高に苦しむ状況に陥ってしまい、そこにロシアのウクライナ侵攻による原油高騰が追い打ちをかけた。岸田首相はエネルギーと食料に特化した付け焼刃的対策で事足りるとばかり、アベノミクス見直しに踏み込もうとしない。しかも、国民が我慢するのは当然と言わんばかりの問題発言も山形駅前の街宣でしていた。

 「例えばアフリカにおいては食料の不足にも耐えながら平和を守るためにしっかりと(ロシアへの経済制裁に)協力をしている。ヨーロッパではエネルギーのとんでもない価格高騰の中でも平和を守るために多くの国民が協力をしている」「なんでこんな物価高騰が起こっているのかに思いを巡らせていただき、平和を守るために日本も力を合わせていかないといけない」

 自らの職務怠慢を棚に上げて「有事の物価高に国民が耐えるのは当然」と考えているに違いない。参院選でどんな審判が下されるのかが注目される。


よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。
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