中高年男性に多い鼠径ヘルニアー耳寄り健康講座⑦
今月のアドバイザー
ときわ会常磐病院 外科 黒川 友博 医師
【鼠径ヘルニアとは?】
鼠径(そけい)ヘルニアとは、鼠径部(足の付け根の部分)の腹壁が弱くなり、腹膜が引き伸ばされ、腸が腹膜ごと体の組織の正しい位置から飛び出してしまう状態(脱腸)を指します。鼠径ヘルニアには、大きく分けて2つの種類があります。1つ目は乳幼児(主に1歳以下)に多いもの、2つ目は成人、主に中高年の男性に多く見られるものです。
今回のコラムでは、成人に生じる鼠径ヘルニアについて解説していきます。
【鼠径ヘルニアの症状】
鼠径ヘルニアの症状は多彩です。無症状の方も少なくありませんが、下腹部の違和感、便秘、軽い腹痛などがよくある症状です。これらの症状は腸がヘルニア嚢と呼ばれる袋を出たり入ったりすることによって生じます。気をつけなければならないことは、腸が周囲の組織で締め付けられ元の位置に戻らない状態「嵌頓(かんとん)状態」になることです。嵌頓してしまうと腸への血流も圧迫され虚血になり、激痛となります。 まずは用手整復(医師が手で戻す)を行いますが、それでも腸が腹腔内に戻らない場合には緊急手術を要します。
【鼠径ヘルニアのタイプ】
鼠径ヘルニアは解剖学的に主に3つのタイプに分けられます。
・外鼠径ヘルニア
鼠径部を通る管・鼠径管に生じる最も多いタイプで、男性に多く見られます。
・内鼠径ヘルニア
鼠径管よりも内側の腹壁(特に腹直筋)が弱くなって生じるタイプです。こちらは高齢男性に多く見られます。
・大腿ヘルニア
大腿管と呼ばれる構造を通り、鼠径部の下側から出てくるタイプです。出産を多く経験した痩せ型の女性に多く、嵌頓しやすいという特徴があります。
・その他の鼠径ヘルニア
膀胱上窩という内鼠径ヘルニアよりもさらに内側の膀胱近くの腹膜が脱出する珍しいタイプのヘルニアもあります。
【鼠径ヘルニアの診断】
診断は主に医師による診察(身体所見チェック)で行われます。鼠径部の腫大に加えて、シルクサイン(ヘルニアの袋を触った時の絹が擦れるような感触)があることが鼠径ヘルニアの特徴です。鼠経ヘルニアの種類や似ている病気の鑑別をするためCT検査なども併用して確定診断を行います。
【鼠径ヘルニアの治療】
鼠径ヘルニアは自然治癒の期待ができないため、治療は手術が原則です。高齢の方や全身状態が悪い場合は経過観察を行うこともありますが、症状が強い場合にはQOL(生活の質)を損なわないよう手術を検討します。市販されているヘルニアバンドなどは、使い方により腸管を損傷する可能性が指摘されているためお勧めできません。
手術には前方アプローチ(鼠径部直上を切る方法)、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術があります。いずれの方法も、「メッシュ」と呼ばれる人工の膜を使って行われます。ときわ会常磐病院では腹腔鏡下手術を中心に、症例によっては前方アプローチでの手術や東北で初めて導入したロボット支援下鼠径ヘルニア修復術も行っています。
「鼠径ヘルニアかな?」と少しでも気になる方は、お早めにかかりつけの医療機関や当院までご相談ください。
くろかわ・ともひろ 1981年生まれ。筑波大学医学専門学群卒。2020年からときわ会常磐病院外科部長。
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