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【義母と娘のブルース】【桜沢鈴】なかなかのイナカ 奥会津移住日記⑤

 会津若松、奥会津に移住して一番ショックな出来事だった。

 拙作が原作のドラマ『義母と娘のブルース』の初回放送から2週間後、10年前に発行された原作本が新装版となって発売される事になった。ドラマの視聴率は好調。皆さんが注目しているはずだ。書店の店頭にずらっと並ぶ我が本の姿を想像しドキドキした。

 書店の一番目立つ所に本を置いてもらえるのは全漫画家、全作家の夢ではないだろうか。

イラスト (1)

 私は感謝の意を伝えるべく会津の書店にご挨拶をして回ろうと、発売日当日、家を出たのだ。

 1店舗目、家から一番近いセブンイレブンさんとは顔見知りで、20冊も発注してくれたと聞いた。まずそこに着くと……驚いた事に私の本が置いてなかった。

 早々に売り切れたのではなく、発注したものの届かなかったそうだ。しかもいつ届くかわからないと。とても気合いを入れて本棚を空けて頂いたのに本当に申し訳なかった。

 2店舗目、なんと本自体置いてなかった。無言で店を出る。3店舗目、ひっそりと店の奥の方に2冊ほど並んでいた。ありがたい、しかしなんだか声をかけるのが申し訳ない気持ちになりそのまま店を出た。

 4店舗目、拙作の出版社の本自体を扱っていないという。心がだんだん冷えてくるのを感じた。

 しかし5店舗目、平積みで置いてあった!! 早速店員さんに挨拶して感謝を伝える。売り場の前でお店の方と一緒に写真を撮ってもらった。

 6店舗目、少ない冊数だが確かに新刊の所に置いてくれていた! 店員さんに感謝を伝え店を去った。

 この辺りで私は立ち止まり、もう帰る事にした。本を置いてくれている書店にはもちろん感謝と喜びの気持ちが湧いたが、心の半分ではとても情けなく、崩れ落ちそうだった。

 実は新装版『義母むす』の初版はとてもとても少なかった。ゴールデンタイムで、全国放送で、しかもあの綾瀬はるかさんが主役を務めるドラマの原作本だが、人に言うとびっくりするくらいの冊数しか刷ってもらえなかった。

 本の部数を決めるのは大体の場合、出版社と本を全国に配本する取次だ。拙作はドラマ化とは言え、紙の単行本でたくさん刷ると売れ残るリスクがあり、リスクのない電子書籍で売っていこうという判断だったのだろう。

 冊数が少ないと、まずは大手の書店にたくさんの部数が送られて、たとえ発注をかけたとしても小さな書店には回ってこないシステムになっている。もしかして、発注をかけても送られてこなかった書店がたくさんあったかもしれない。

 初版の部数はひとえに、自身の努力不足、信用度不足が招いた結果。本当に申し訳ない。

 幸せな日のはずなのに、自身の実力不足を痛感し、人生で一番惨めな気持ちになって家路に着いた。

 その後、新装版は売れたようで少しずつ何度も重版をかけて頂いた。有難うございます。

 しかし、もし東京に住んでいたら、都心の大手書店の売り場だけを見て、まさか地方の書店に本が十分に回っていないなど気づかなかったと思う。

 私は新たに、会津はもちろん、全国の書店で平積みにされるような作品を作るんだと心に誓った。

さくらざわ・りん 大阪府出身。漫画家。7年前に会津若松市に移住し、現在は奥会津で暮らす。代表作『義母と娘のブルース』はドラマ化されて大ヒットした。


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