見出し画像

【畠山理仁】「自由な選挙」を守るには|選挙古今東西51

 5月17日、政治団体「つばさの党」の3人が「選挙の自由妨害」の疑いで警視庁に逮捕された。逮捕されたのは、同党代表の黒川敦彦氏、幹事長の根本良輔氏、組織運動本部長の杉田勇人氏の3人だ。

 つばさの党は4月28日に投開票が行われた衆議院議員補欠選挙東京15区において、他陣営の演説会場に「凸撃」し、大音量で「質問」を繰り返すなどして演説を妨害した疑いが持たれている。

 つばさの党の行為は選挙後にテレビなどで大きく報じられたので、「妨害」の様子を映像で目にした人も多いだろう。今回の逮捕でホッとしている人も多いかもしれない。

 しかし、問題は解決されていない。逮捕が選挙後だったため、「有権者が選挙期間中に候補者の演説を聞く権利」は侵害されたまま選挙が終わってしまったからだ。つまり、また同じようなことが起きた場合、私たちは安心できる状態で演説が聞けないまま投票日を迎えることになる。これは候補者にとっても有権者にとっても、大変憂慮すべき事態だ。

 極論を言っているわけではない。つばさの党の黒川・根本両氏は、逮捕前から7月7日投開票の東京都知事選挙への出馬を表明している。2人は今回の行為が「表現の自由、選挙の自由の範囲内」だと主張しており、都知事選でも同様の活動を続けることも宣言している。

 逮捕=有罪確定ではなく、公民権が停止されたわけでもない。たとえ勾留中であっても立候補は可能だ。候補者本人が不在でも、標記と腕章があれば街頭での選挙運動はできる。同党の他のメンバーが今回と同様の行為を礼儀正しく行った場合、はたして選挙中に止められるのか。

 今回、つばさの党の「妨害」行為を受け、選挙期間中に「公職選挙法の改正」を追加公約にする陣営もあった。気持ちはよくわかる。しかし、安易な法改正は危険もはらむ。

 たとえば権力者側が「自分に都合の悪い発言は選挙妨害」と主張し始めたらどうだろうか。誰がその発言を「正当」「不当」と判断するのだろうか。自由な言論の幅は確実に狭められてしまうだろう。

 実際、政治家にとって都合の悪いことを取材に行ったジャーナリストが、政治家側に「妨害」と主張されて警察を呼ばれた事例も起きている。一時的とはいえ、権力者による取材妨害を許す可能性も秘めている。

 これまでの日本の選挙は、候補者間の話し合いや紳士協定で「自由な選挙の場」が維持されてきた。それゆえに「対立陣営からの凸撃」に対抗する手段をほとんど考えてこなかった。これからは「自由な選挙の場」を確保するために、候補者も有権者も工夫をしていく必要がある。

 たとえば今回、つばさの党に対して「君たちの話を聞きたいから、こっちへ来い」という人がいたらどうなっていただろうか。妨害に行かなかった可能性もあるのではないか。つばさの党が応じなければ、「話を聞かせて」と追いかける有権者がいてもよかったのではないか。

 安心・安全な選挙の場を作るために、有権者ができることはまだある。


はたけやま・みちよし 1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大在学中より週刊誌などで取材活動開始。選挙を中心に取材しており、『黙殺 報じられない〝無頼系独立候補〟たちの戦い』(2017年、集英社、2019年11月に文庫化)で第15回開高健ノンフィクション賞受賞。


政経東北で県議選を選挙漫遊↓

よろしければサポートお願いします!!