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悪あがきに見えた無実の主張|【高橋ユキ】のこちら傍聴席⑦

 陸上自衛隊郡山駐屯地(郡山市)に所属していた元陸上自衛官の女性(23)に対し2021年8月、覆いかぶさったうえ下半身を押し付けたとして強制わいせつ罪で在宅起訴された3人の元隊員についての初公判が6月29日に福島地裁で開かれた。3人は「下半身の接触はなかった」などと起訴事実を一部否認。うち1人は「腰を振ったのは事実だが、笑いを取るためだった」と述べた。同日、女性は証人尋問で「下半身が押し付けられる感触があった」と証言している。

 刑事裁判では検察側・弁護側双方から証拠請求がなされるが、こうした事案の場合、弁護側は被害者の供述調書を不同意とする。主張と相入れないためだ。検察側は立証のため、被害者の証人尋問を求める。本事件でも、そうした経緯で女性の尋問が行われたと推察される。

 弁護側は供述調書がそのまま採用される場合と異なり、被害者に直接質問し、反証する機会を得られることになるが、本事件に限らず、性犯罪の否認事件では時折、無罪の立証のために被害者に関するプライベートな情報を公表し、精神的負担を強いているように見えることがある。横浜地裁でこんな裁判を傍聴した。

 被告人の男は若い女性の住むマンションに深夜侵入し、ナイフで脅して性的暴行を加え、金品を奪い逃走するという生活を長く繰り返してきた。

 事件は2017年の刑法改正前である「強姦罪」が複数含まれており、そのうち1件について被告人は「性器に挿入というのは違います」と否認していた。聞けば「肛門性交は行ったが膣には挿入していない」というのである。かつての「強姦罪」は「暴行・脅迫を用いて女性の膣内に陰茎を挿入」しなければ成立しない。被告人の主張が通ればこの1件の事件は無罪となる。郡山の事件と同様、被害女性の尋問が行われた。

 「電気が暗くなり、服を脱がされ、性的な行為をされました。胸を掴まれ、膣や肛門に挿入されたりしました。逃れようとしましたが、殴られて抵抗できない状態になりました」

 「私は妊娠するという強い恐怖があり、それは陰茎を膣に入れられたから、感じたことだと思います」

 時効直前の事件。10年以上前の忌まわしい記憶を呼び起こし、女性は衝立の奥から証言するが、弁護人は女性の身体的な特徴をもって膣への挿入を行わなかったと主張していたため、その話題もたびたび出た。文章にするのはためらわれるため、伏せておきたい。

 判決では被告人の主張は認められていない。「他の事件は全て挿入を試みているのに、この事件だけ挿入していないのは不自然」と一蹴されていた。犯行時の動画には肛門性交の様子のみが記録されていたが「犯行全てを記録しているとは限らない」とも指摘されている。

 刑事裁判で無罪を争っている被告人は実は珍しくはない。だがそのうち本当に無罪判決が下されるのはごくわずかだ。司法の見落としが頻繁に起こっているのか、と思われる方もいるだろうが、傍聴席で見る限り、そうとも言えない。無実を訴えているというよりも、悪あがきしているように見える被告人もいるからだ。

 郡山駐屯地の事件の被告人らは本当にやっていないのか。本当に笑いを取るための行為だったのか。公判を注視したい。

たかはし・ゆき 1974年生まれ。福岡県出身。2005年、女性4人で裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。以後、刑事事件を中心にウェブや雑誌に執筆。近著に『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』。

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