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【知事選直前特集第2弾】検証・内堀県政8年(牧内昇平)

『政経東北』2022年9月号より

知事が会う人、会わない人


 政治家は人と会うのが仕事だ。県知事になった2014年11月、内堀雅雄氏は「現場主義」が自らの信条だと語った。確かにこの8年間、内堀氏は様々な人と会ってきた。しかし一方で、「知事に会いたい」と何度申し込んでも、会ってもらえない人たちがいる。内堀氏の「現場主義」とはいかなるものなのか。10月の知事選を前に、その人物像に迫る3回シリーズの第2弾。

 2016年11月28日早朝、村田弘さんは仲間たちと福島県庁へ向かった。

 「今日こそは是が非でも内堀知事に会いたい。たとえ数分でも直接話をしよう」

 村田さんは南相馬市小高区に住んでいた。原発事故後、妻と神奈川県へ避難。原発事故による損害の賠償や責任の明確化を求める被災者団体「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)の中心メンバーの一人である。当時ひだんれんなど複数の団体が憂慮していたのは、避難者の住まいの問題だった。内堀氏は2015年6月、避難指示が出ていない地域からの避難者たち(区域外避難者)に対する住宅無償提供を16年度末で終了すると決めた。このままでは、ただでさえ生活に困っている人たちが住む場所を失ってしまう。村田さんたちは知事に直接会って避難者の実情を伝え、翻意を促そうとした。「直訴状」まで書いて県庁に向かった。

 〈原発事故があったから、母子避難をしています。少しでも不安な気持ちを抱えている私達を、知事は助けてはくれないのでしょうか? 私達には何の補償もなく、唯一あった住宅までも奪うのですか? 1人でも多くの県民をどうかお守り下さい。住宅無償提供を引き続きお願いします〉

 〈この5年間を県外で踏ん張って避難している方への命綱である、住宅無料措置を絶たないでください。この声はほんの一部であり、生活に手一杯で声を出せない方や、自分の仕事上での立場を気にして声に出せない方等潜在数が多くいると思います。どうか勇気を振り絞って出したこの声をどうか無視しないでください〉


区域外避難者への住宅支援打ち切りは、福島県が避難者を訴える事態にまで発展している=2021年8月、福島市内=牧内昇平撮影

 彼らは内堀氏に会えたのか。ひだんれんがホームページに載せた報告文から抜粋して紹介する。

 ――9時過ぎに内堀知事に直訴すべく知事室に向かったところ、大勢の職員がものものしく廊下に居並び、アポがないからこれ以上は進めないと、知事室に向かう廊下に足止めとなりました(アポを取ると断られること必定だったため、とらずに臨みました)。私たちはこの手紙を手渡すために来たので、知事に会わせてほしいと伝えました。しかし、知事には会えない、秘書課も会わないとのことで、廊下でやり取りをしているうちに、10時から、その廊下沿いにある応接室で、定例知事会見が始まることになり、守衛や職員が私たちの前に壁となって並んだ向こう側を、硬い表情の内堀知事が素早く通り抜けて行きました。すかさず「直訴!」と手紙をかざしましたが、受け取ってはもらえず、その廊下で手紙を2通読み上げて、結局秘書課にも渡せず、避難地域復興課に渡すことになりました。その後、県庁にいる間中、県職員や守衛が私たちの後をつけ、監視されていました――。


ひだんれんの村田弘さん=牧内昇平撮影

被災者団体とは面会しない

 不可解なほどのシャットアウトぶりである。内堀氏はこの「直訴」の件をどのように感じていたのか。当日の記者会見では、こんなやりとりがあった。

 記者「会見室に入られる際に知事もお聞きになったと思いますが、『住宅支援を継続してください』、『直訴します』という声があったと思います。自主避難者の方々が近くにいらっしゃっていて、改めて面会などについての考え方に変わりはないですか」

 内堀「現在、戸別訪問や各地で開催している交流会などにおいて、避難している方々の御意見、御要望をお聞きしているところです。これからも福島県という組織全体で丁寧に対応してまいります」

 本誌前月号で「内堀話法」として紹介したが、ここでも内堀氏は通り一遍の回答に終始した。「丁寧に対応する」と言うのなら短時間でも言葉を交わせばいいと思うが、内堀氏はそうしない。結局、村田さんたちはこの日から12月2日までの5日間、連続して県庁を訪れ、知事に面会を申し込んだが、一度も叶わなかったという。ひだんれんはその後も、「『避難の権利』を求める全国避難者の会」などと共に、県庁の担当課と交渉を続けている。折に触れて「知事に直接会って実態を伝えたい」と申し込んでいるが、断られ続けている。

会わない理由は「忙しいから」

 避難者の住まいの問題をめぐっては、山形県内にできた市民団体も、知事への面会が叶わなかったようだ。内堀氏はなぜ、こうした団体と会わないのか。記者会見ではこのように語っている。

 記者「自主避難者(区域外避難者)の方がこれだけたくさんいて、知事に直接意見をぶつけたいという方がいらっしゃる中で、事務レベルでの対応に留まっています。知事の『現場主義』という普段掲げている目標から、会わないというのはどういう理由からなのかを伺えればと思います」

 内堀「私自身、『現場主義』を理念に掲げていますので、できる限りいろいろな方にお会いする努力を重ねております。一方で御承知のとおり、いろいろな日程で対応しておりますので、全部が全部会えるわけではない、それが現実です。例えば市町村長さんへの訪問は優先しております。これも192万人の県民一人一人と全部お会いできるかというとそうはいかない中で、首長さんは各地域を代表していますので、そういう方々と丁寧にお話しすることは、今後も是非続けていきたいと思います」

 内堀氏のスタンスがよく分かる回答である。192万人が面会を求めている訳ではない。県の避難者政策に特に関心を持っている人びとが、切実な思いで継続的に面会を求めているのだ。「忙しいから会えない」と言うが、その理屈は通用するだろうか。内堀氏は県政のトップだ。トップが自分の意思では30分ほどの面会時間も作れないのか。

 結局、区域外避難者への住宅無償提供は2017年3月末に打ち切られた。福島県はその後、首都圏の国家公務員宿舎で暮らす避難者の一部に対して、宿舎からの立ち退きを求める訴訟を起こすなどしている(表参照)。村田さんはこう指摘する。

 「県が避難者を訴えるというのは異常な事態だ。内堀知事は県政の最高責任者として、なぜこんな事態になってしまったのかを説明する責任がある。我々ひだんれんに対してでなくても、何らかの形で県民と対話すべきだ。避難者の住まいの問題は、汚染水の海洋放出などと並んで、内堀氏が知事に就任してから深刻になった問題である。3選をめざして立候補するなら、その前に彼はこの問題について直接説明すべきだ」  原発問題に関心をもち、時には内堀県政に異を唱えることも辞さない市民団体に対して、県庁の対応は概して冷淡だ。例を挙げよう。

組織的な〝冷たい〟対応

 今年1月、小泉純一郎氏ら元首相5人が、EU欧州委員会に宛てた書簡で、「(原発事故で)多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」と書いた。内堀氏はこの件を「遺憾だ」と語り、県として元首相たちに「客観的な発信を」と文書で申し入れたことを明らかにした。

 この内堀氏の言動に抗議の意を示したのが、市民団体「甲状腺がん支援グループあじさいの会」である。「遺憾」発言後の2月上旬、内堀知事に宛てた質問書を提出。▽原発事故後、多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいることは事実ではないとお考えでしょうか▽県民健康調査によって現時点までに確定している221人の甲状腺がんは「すべて放射線被ばくと関連なし」とお考えでしょうか、といった質問を投げかけた。

 あじさいの会事務局長の千葉親子さんによると、「当初2月18日までに返答をお願いしましたが、県庁から返事はありませんでした。催促の手紙を送り、返信用の封筒まで入れておきましたが、現在に至るまで質問書に対する返事は一切ありません」。

 なぜ回答しないのか。筆者が問い合わせたところ、県民健康調査課の担当者は「県民健康調査については、あじさいの会だけでなく、あらゆる団体のご要望、ご質問に対して個別の返答は控えております」と答えた。質問に回答できない特別な事情があるなら、その事情を先方にきちんと伝えるのが礼儀だと思うが、いかがだろうか。

 県民健康調査については、NPO「はっぴーあいらんど☆ネットワーク」も調査の進め方などについて知事宛ての要望書を出している。しかし、文書で回答が届いたことは一度もないという。スタッフの千葉由美さんは、「私はいわき市など他の自治体とも話し合いを行っていますが、要望書を提出すれば文書回答が当たり前です。文書で回答できないと言われたことはありません。県庁の対応は市町村と比べても冷淡だと感じます」と話す。

 次に、汚染水の海洋放出問題だ。放出に反対する市民グループ「これ以上海を汚すな!市民会議」は5月25日、内堀氏宛てに要請書を出した。▽理解と合意なき海洋放出の事前了解には同意しないこと▽福島県は政府と東京電力に対し、本件に関する説明・公聴会を県内及び全国で開催するよう求めること、などが要請内容で、6月15日までの回答を求めた。しかし、県庁からの回答はなかった。回答期限を大幅に過ぎた8月3日、市民会議は、海洋放出問題を担当する原子力安全対策課に問い合わせた。すると担当者は「要請書をいただいた時に口頭で回答しました」と言った。市民会議は納得がいかず、文書での回答を改めて求めたという。

 ここでもやはり、市民たちへの失礼な対応が露わになった。市民会議の共同代表の1人、佐藤和良さんは「福島県庁は県民の声を聞かず、霞が関や永田町の方ばかり見ている。県民を守る立場に全く立っていないと感じました」と話している。

 同じく海洋放出をめぐっては6月21日、反対する市民有志が県庁前に集まり、街頭行動を行ったこともあった。主催者たちは内堀氏にも関心を持ってもらおうと、事前に手紙を出していた。

 〈福島県知事 内堀雅雄さま
 県庁の前にて内堀県知事に訴えるアクションを行います。海はみんなのたからもの。今を生きる私たちだけのものではありません。ぜひ、県庁前に県内外から集まる市民の声を聴いてください。お待ちしております〉

 この手紙は内堀氏の手に届いたのか。知事の秘書業務を取り仕切るのは「県庁秘書課」である。担当者に聞くと、意外な答えが返ってきた。

 「知事にその手紙が届いたかは、私には確認できません。知事への面会申し入れや要望書などは、秘書課を経由して、担当課に回ります。担当課が必要性を判断し、知事、副知事へと伝える流れになっていますので、知事が手紙を読んだかどうかは、私は把握しておりません」

 驚いた。この仕組みだと、担当課にとって不都合な情報をもたらす人物・文書は、知事の目に触れないことにならないか。これで本当にいいのだろうか。

表敬訪問には対応

 面会を求める市民団体とは頑なに会おうとしない一方で、内堀氏はたくさんの人と会っている。県庁秘書課が作成している「行事日程表」(2021年)に基づき、内堀氏のスケジュールのごく一部を紹介しよう。

 ・4月8日午前10時半
 「牡丹キャンペーンクルー」の表敬訪問

 ・同日午後3時
 福島レッドホープスのシーズン開幕挨拶

 ・6月21日午後3時
 「ミスピーチ」の表敬訪問

 ・7月16日午後2時半
 「ミスうねめ」の表敬訪問

 ・7月29日午後2時
 明治安田生命保険社長の表敬訪問

 ・8月20日午後1時
 広澤克実氏(元プロ野球選手、日本ポニーベースボール協会理事長)の表敬訪問

 ・10月19日午後5時
 松岡茉優氏(俳優、ふくしま知らなかった大使)の表敬訪問

 ・12月22日午後4時
 学校法人立命館総長の表敬訪問

 この行事日程表を見ていると、被災者団体との面会も時間的に可能ではないかと思えてくる。

会食でコロナ感染?

 先ほど紹介したのは内堀氏が公務で会った人たちだ。政治家なのだから、その他にも人と会うことは多いだろう。それに関連して、ある〝問題〟が発生したのは記憶に新しいところだ。

 〈福島県は22日、内堀雅雄知事が新型コロナウイルスに感染したと発表した。発熱などの症状はなく、自宅療養する方向で保健所と調整中だ〉(5月22日時事通信)

 報道や記者会見によると、内堀氏は5月16日に福島市内の飲食店で会食を行った。後日、会食した相手が陽性になったため自宅待機していたところ、22日のPCR検査で感染が分かった。内堀氏は「19日の検査では陰性だった。会食で感染したとの特定は難しい」と話す。しかし、状況から考えてその可能性は低くないと言うべきだろう。16日に誰と会食したのか。内堀氏や福島県庁は明らかにしていない。人と会うのは政治家の仕事であり、それ自体を責める気は毛頭ない。だが、「それなら避難者たちとも話ができるのでは?」と筆者は思ってしまうのだ。

 内堀氏が「会わないほうが望ましい」人たちと会っていたという事実も、最近になって発覚した。

渦中の宗教団体とも会っていた

 7月25日の記者会見で旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関係を尋ねられた内堀氏は、いったんは「私自身についてはございません」と否定した。しかし、その後訂正し、福島市内にある同団体の「福島家庭教会」に立ち寄り、挨拶をしたことがあると明かした。

 8月9日付朝日新聞にはこうあった。〈政務秘書によると、内堀氏が教会に立ち寄ったのは前回18年の知事選の遊説中に一度あった。当日、案内人を務めた支援者に連れられて同教会を訪れ、100人規模の集会で1~2分、県政の抱負などを述べたという。急に連れて行かれたため、断る状況ではなかったとしている。選挙での支援は受けていないという〉。

 しかし、旧統一教会については金銭トラブルなどの問題が指摘されており、やはり政治家としては注意が必要だったはずだ。「急に連れて行かれたため、断れなかった」などという弁解は通用しないだろう。この内堀氏と旧統一教会との関わりの件、マスメディアの扱いが総じて小さいので、あえて書き記しておく。
     ◇
 ここまで書いてきた通り、内堀氏はたくさんの人と会っている。さすがは「現場主義」だ。ただし、それならば、面会を切実に求める被災者団体や、原発事故への対応をめぐって県と意見が異なる市民たちとも会う余地はあるはずだ。そうしないのなら、彼の「現場主義」には疑問を抱かざるを得ない。


まきうち・しょうへい。41歳。東京大学教育学部卒。元朝日新聞経済部記者。現在はフリー記者として福島を拠点に取材・執筆中。著書に『過労死 その仕事、命より大切ですか』、『「れいわ現象」の正体』(ともにポプラ社)。公式サイト「ウネリウネラ」(https://uneriunera.com/)。


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