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【政経東北】原発運転「実質60年超」に反対―巻頭言2023.1

 喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこのことだろう。

 政府は「原則40年、最長60年」とする原発の運転期間を「実質60年超」に変更する方針を示した。40年と60年は民主党政権下で2012年に定められた期間だが、東電福島第一原発事故を機に導入されたルールはたった10年で変わることになる。

 現行のルールは原発が運転開始から40年を迎える際、規制委が施設の安全性を確認し、1回に限り最長20年の運転延長を認めている(運転延長認可制度)。これとは別に、運転開始から30年を迎えた原発は10年ごとにメンテナンス計画の中身を確認される(高経年化対策制度)。新しいルールはこの二つを一本化し、運転開始から30年で審査を受け、以降10年ごとに国の認可を得る必要がある。さらに審査に伴って運転停止する期間を、運転期間から除外して実質60年超の運転を可能にするという。

 この60年という上限を、国は当初撤廃しようとしていた。そうすれば審査を通った原発は70、80、90年超の運転も可能になるが「事故の教訓を軽視している」という反発を恐れ、撤廃は見送られた。政府は今年の通常国会で関連法案の提出を目指す。背景にはカーボンニュートラルを実現したい政府が二酸化炭素を出さない原発の稼働率を引き上げたい思惑がある。次世代原子炉の開発が進まず実用化が見通せないことも、既存原発を長期運転させたい理由。

 カーボンニュートラルやエネルギー確保は確かに大切だ。しかし、事故で放出された放射能がさまざまな被害をもたらし、未だに被害が継続していることを思うと新ルールは到底認められない。

 納得いかないことが三つある。一つは規定する法律が変わることだ。現行ルールは原子炉等規制法に定められているが、新ルールは電気事業法に移される。安全性を軽視し、電力会社を守る姿勢が鮮明になった。二つは規制委が「運転停止期間中に劣化する機器もあり原発ごとに状況は違う」として科学的・技術的な結論を得るのは困難としつつ「原発の利用期間を決めるのは政策判断」と述べていることだ。政策判断の前提には科学的・技術的な結論が必要なのに、それを示さず利用期間は政治家が決めろと言うのは無責任だ。三つは内堀雅雄知事が相変わらず自身の考えを述べないことだ。定例会見で実質60年超について質問されると「国が責任を持って対応すべき」と従来の発言を繰り返した。被災地の知事として事故の痛みを一切語ろうとしない姿は異様だ。

 教訓を軽視すれば、手痛いしっぺ返しを食らうことを忘れてはならない。

(佐藤仁)


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