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【政経東北】放置される山の汚染と法の不備|巻頭言2023.12

 原発事故が発生した2011年3月11日、政府は「原子力緊急事態宣言」を発令し、原子力災害対策本部を立ち上げた。同年8月には原子力災害対策特措法が施行され、同法に基づき除染や除去土壌の処理などが進められている。だが、そのことが新たな問題を生み出している。

 11月3日、飯舘村で開かれた飯舘村放射能エコロジー研究会(IISORA)第11回シンポジウム。京都大学複合原子力科学研究所(旧京大原子炉実験所)で、長年にわたり原発の安全性について研究している今中哲二氏が発表を行い、「除染対象となっていない山林などの汚染は放ったらかしにされている。その背景には、特措法により原発事故による汚染が従来の規制の枠外となったことがある」と指摘した。

 「特措法で除染対象となる放射性物質について『事故由来放射性物質』という新たな定義を定め、原子炉等規制法、放射性同位元素規制法と別枠にしたことで、法律の網がかからない場所が生まれてしまった。環境基本法ではもともと放射性物質は適用除外とされてきた経緯があり、原発事故後の2012年に適用となったものの、その後も環境基準の策定は進んでいない。国もどう整合性を取ったらいいか分からなくなっているのではないか」(今中氏)

 今中氏の元同僚である小出裕章氏も「同宣言が解除されていないことで、電離放射線障害防止規則(電離則)などで定められている放射性物質に関するルールが無視され、多くの人が不要な被曝をすることになった」と述べている。

 同シンポジウムの発表によると、同村の未除染地区の土壌は1㌔当たり1万ベクレル以上のところがざらにある。樹木や葉、キノコ、腐葉土の汚染が確認されていることから、自然の循環サイクルに放射性物質が組み込まれたとみられる。放射性セシウムの半減期は約30年で、300年かけてようやく事故前の基準にまで減衰する。福島第一原発に溜まる汚染水(ALPS処理水)の海洋放出が注目された一方で、山の汚染は平然と放置されている現状がある。

 今中氏は「環境基本法の考え方に基づき、放射性物質の環境基準を設定すべきだ。土壌汚染年間0・1㍉シーベルト、水・空気年間0・01㍉シーベルトを基に環境目標値を設置し、自治体はハザードマップを作る必要がある」と主張している。

 政府は法の不備を抜本的に見直し、関連のルールを整備するとともに、長期間にわたる不要な被曝を避けるための対策を講じるべきだ。政府がやらないなら原発被災自治体が自ら動けばいい。(志賀)



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