1Fで「廃炉」は行われていない―【尾松亮】廃炉の流儀 連載18

(2021年9月号より)

 「福島第一原発の廃炉を進め、福島の復興を成し遂げる」

 これは今年4月13日に、菅総理が記者団に語った言葉である。菅総理は処理後の汚染水の海洋放出を「(廃炉を進めるために)避けて通れない課題だ」として正当化する。しかし、「海洋放出の是非」以前に、前記の総理発言には決定的な問題がある。

 実は福島第一原発では「廃炉(原子力施設廃止措置)」を前に進めることはできない。なぜなら、同原発で「廃炉」は行われておらず、そもそも廃炉の前提となる「廃炉計画」(廃止措置計画)も提出されていないからだ。それにもかかわらず、政府トップが記者会見で「(福島第一原発で)廃炉が行われており、それを前に進めることが可能」であるかのようにミスリードしている。

 IAEAのガイドラインや原子力規制委員会の規則に従えば「廃炉(廃止措置)」とは「規制解除を目指す活動」と規定される。「規制解除」とはどういうことだろうか。原子力発電所には放射線管理区域など特別な防護措置や行動制限を求める「規制」が課せられている。施設解体や除染を徹底することでこの「規制」をなくし、敷地外の普通の地域と同じ扱いができるよう目指すのが「廃炉(廃止措置)」である。

 原子力規制委員会規則によれば、廃炉終了のためには「核燃料物質の譲渡し完了」「放射線管理記録の引き渡し」などが求められる。つまり制度上は、「使用済み燃料も搬出され、放射線管理がこれ以上必要ない」状態を目指すプロセスが「廃炉」ということになる。

 通常原発の「廃炉」であれば、前記のような「規制解除」を目指す廃止措置計画を原子力規制委員会に提出し、認可を得る必要がある。例えば今年6月に廃炉がスタートした福島第二原発の場合、一応は上記規則に従った廃止措置計画の審査・認可を受けている。使用済み燃料の搬出先など現実的な問題は残るが、原子炉解体や跡地除染を含む「規制解除を目指す」プロセスとして44年計画を示している。この計画を変更する場合にも、やはり原子力規制委員会の審査が必要になる。

 福島第一原発の場合、この廃止措置計画の提出も、原子力規制委員会による審査・認可も行われていない。「40年後終了目標」を示した政府と東電のロードマップは廃止措置計画とは全く別物で、「規制解除」を約束してはいない。現在、福島第一原発で行われている作業は「規制解除」を目指す工程としての「廃炉」ではないのだ。

 それでは、福島第一原発で行われているのは一体何なのか。原子炉等規制法によれば、事故炉がある原発には「特定原子力施設」という特別な位置づけが与えられる。この「特定原子力施設」に対しては、通常原発に対する廃炉規則は適用されない。その代わり、事故でダメージを受けた原子炉施設や損傷した核燃料の安全性を保つための「保安・防護措置計画」の提出と実施が求められている。

 つまり福島第一原発で行われているのは、事故原発および損傷した核燃料の「保安・防護」に係る作業なのである。私たちはその認識を広く共有する必要があるし、「(行われてもいない)廃炉を進めるため」という言い分を簡単に認めてはいけない。


おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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