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海洋への希釈放出も「国策民営」―【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㉚

 今回は第27回(22年6月号/注1)の続きに相当する記事です。

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後、フクイチと略)の所謂「ALPS処理水」について、政府・東電は、海洋放出の準備を加速させています(経緯・概略1~3参照)。





 原子力規制委員会の実施していたパブリックコメント(私の送信した意見は拙ブログに掲載/注2)の結果は7月の第25回原子力規制委員会で報告され(議題1)、規制委員会は、東電の実施計画を認可しました(注3)。
 尚、同委員会の様子と所感は拙ブログに書いています(注4)。

 規制委の認可から2週間後には、首長による「(工事の)事前了解」を経て、フクイチでは放出用設備の設置工事が開始されました。

 昨年からの経産省・規制委・東電・自治体の動きは「見事な連携プレー」です。特に、経産省は用意周到です。

 設備の設置準備が進められる間に、経産省は21年度補正予算で300億円を確保しており、その前から、「放射性核種」や、所謂「風評対策」に関する調査を委託していました(注5・6)。

 経産省は、5月には「福島第一原発のALPS処理水等に関する広報事業」の公募を始め、8月19日時点で6事業の受注先が決まっています(「JTB」「エフエム福島」「ユーメディア」「読売新聞」「電通」「流通経済研究所」/特設サイト[注7]より/[注8])。

 これらの広報事業は、流通経済研究所の調査報告(注6)を基に考案されたものでしょう。同報告書には、今後打ち出されるであろう「風評対策」の基本が書いてあるように読めます。

 東電が会見で「設備設置はスケジュールありきではない」「関係者の理解なしには放出しないという、県漁連との約束は守る」と表明している中で、且つ、設備の完成前に、税金を投入して「放出ありき」の広報事業を発注するのは、「全体の奉仕者」たる行政・公務員にあるまじき行為と言えます。先の委託調査の報告書が公表(注9)されたのも今年5月以降です。経産省は情報を後出しにし、先手を打って、自らに都合よく世論を誘導しようとしているようです。

 海洋放出への動きを全体的に捉えると、「設備設置や広報の具体的な実施は民間」「規制委員会や経産省は民間をチェック」という役割分担が見えます。

 これは「核災害由来の放射性廃棄物の、意図的且つ大量の投棄」を、「国策民営」で推進するもので、原発利活用と同じ構図です。

 行政も企業も都合よく責任を分散し、取り返しのつかないことが生じても、誰も明確に責任を負わないという体制の存続に他なりません。

 フクイチ核災害の後始末を、その災害を招いたのと同じ構図で進めて良いのでしょうか?

注1/「処理水」放出設備認可案へのパブコメ提出は6/17まで 

注2/「処理水」放出設備に関するパブコメに意見を提出 

注3/第25回原子力規制委員会の動画と資料 

注4/「処理水」放出設備の設置計画を原子力規制委員会が認可 

注5/令和2年度原子力の利用状況等に関する調査事業 

https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000724.pdf

注6/令和3年度原子力発電施設広聴・広報等事業 

https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2021FY/000174.pdf

注7/ALPS処理水の海洋放出に伴う需要対策基金事業 

注8/6事業の発注上限額の合計は約16・5億円。実際の受注額は非公表。

注9/委託調査報告書のご案内 


春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。


*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ

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