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21年度までの入域人数・死傷人数等―【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㉘

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)で働いて下さっている「放射線業務従事者」の入域人数・被曝線量・死傷者数を当連載で取り上げるのは3回目です(前回は2021年8月号/注1)。
 
 詳細は「まとめ1~4」と「参考」をご覧下さい(注2)。




 過去記事と重複しない範囲で大きく4つ取り上げます。

 ●今年6月下旬の時点で約1年5ヶ月間「死者ゼロ」が続いています。又、「まとめ」では明確に示せていませんが、今年3~5月は負傷者もゼロです。これらが本当に事実なら喜ばしいことですが、協力会社(元請け・下請け)の寮で就寝中に亡くなるなど勤務時間外の死亡はカウントされる仕組みが有りません。又、負傷や体調不良があっても、協力企業の判断でフクイチ構内のER(救急救命室)を利用せずに構外の一般病院を受診している可能性は否定できません。元請けが報告するか、ERの利用が無ければ、東電は死傷者の情報を把握できません。あくまでも東電の集計・発表であることに留意しなければならないでしょう。

 ●フクイチへの「年度入域人数」は、2014年度をピークに減少傾向が続いています。一方で、21年度の「平均被曝線量」は、東電社員こそ発災以降で最も低い値でしたが、協力企業従業員は下げ止まっています。

 「年間5mSv超え被曝人数」も下げ止まりの傾向です。

 協力企業従業員への負担が鮮明になりつつあるとも見えます。

 ●「フクイチ過労死訴訟」(「まとめ3」の※2―2)は、提訴から約3年3ヶ月で終結しました。原告は雇用元には勝訴、発注元・元請けには敗訴です。

 一審・二審とも、(故・猪狩さんが働いていた)自動車整備工場の業務実態や、死亡当日の検証が極めて不十分なまま「発注元・元請けに法的な責任は認められない」と判断しており、奇妙・奇怪な判決でした。

 紙幅の関係で二点だけ指摘します。

 一審判決は「宇徳が自動車整備工場に監督者を置いて指揮していた事情はうかがわれない」旨を認定していますが(判決59頁)、東電の2017年10月12日付資料(注3)には、工場の体制について「工場長1名・副工場長1名……」と記載されています。元請けの宇徳が監督者を置いていなかったとすると、東電の資料に記載の「工場長・副工場長」とは、どの会社の誰なのでしょう?

 又、一審・二審とも、故・猪狩さんが、死亡当日の昼休憩明けの移動中から「気分不快を訴えていた」ことを認めています(一審判決26頁・二審判決9頁)。この時点で「ERに向かう」判断がなされなかったのは何故でしょう?(故・猪狩さんは工場に到着後に動けなくなり、声掛けに反応しなくなったため、同僚がERへ社用車で搬送) 

 私は、一審・二審の判決を読んで、「原発構内の労働や業務の実態はブラックボックスにしておきたい」「電力事業者はアンタッチャブル(≒手を触れてはならない)」という暗黙の了解でもあるのかと思いました。

 ●全国の実用発電用原子炉への2021年度の入域人数は、過去15年間で最少人数でした(「参考」参照)。年間5mSv以上の被曝人数も、過去15年間で初めて100人を割り込みました。被曝人数・線量とも減りました。

 最後に、見出しから外れる話題です。

 原子力規制委員会が実施していた、「ALPS処理水の放出設備設置に関するパブリックコメント」に私が提出した意見は、拙ブログに掲載しました(注4)。

注1/

注2/東電・原子力規制委員会の資料に基づいて春橋作成。

注3/構内専用車両の運用状況及び車両設備について 

https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/238311.pdf

注4/「処理水」放出設備に関するパブコメに意見を提出


春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。

*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ

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