見出し画像

『シティ情報ふくしま』が『Monmo』に吸収⁉

新雑誌のカギはメーンターゲット設定とウェブ戦略

(2021年6月号)

 福島県北エリアで発行されているタウン情報誌『シティ情報ふくしま』と県全域で発行されているお出かけ情報誌『Monmo』(モンモ)が統合し、『CJ Monmo』(シージェイ モンモ)として7月25日に新しく創刊される。両誌が統合に至った経緯をリポートする。

 『シティ情報ふくしま』(以下CJ)は福島市を中心とした県北エリアで発行されている月刊のタウン情報誌だ。おでかけスポットやグルメの情報が満載で、1985(昭和60)年に創刊されて以降、地元に親しまれてきた。定価460円。発行部数3万5000部。発行元は印刷業で県内一の規模を誇る㈱日進堂印刷所(以下日進堂)の子会社・㈱エス・シー・シー。

 CJといえば無料・割引クーポンが魅力で、忘新年会シーズンには十数ページにわたって飲食店の特集を組んでおり、読者は付録のクーポンを利用してお得なサービスを受けることができる。

 全国的に飲食店のクーポンといえば、20年ほど前から台頭してきた無料クーポンマガジン『ホットペッパー』がお馴染みだが、県北エリアで同誌を見かけることは無い。それもそのはず、発行元のリクルートライフスタイルが同誌を全国展開する中で、福島市への進出を断念した経緯があるからだ(県内では郡山市で5万5000部発行されている)。

 それほど県北エリアにおいて、CJの知名度は圧倒的だ。

 このほかエス・シー・シーでは、2004(平成16)年にCJの姉妹誌として『Monmo』(以下モンモ)を創刊。「上質なふくしまを楽しむ大人の情報誌」をコンセプトとしており、鮮やかな写真を使って大きく〝見せる〟のが特長だ。隔月発行で県内全域を対象としている。発行部数2万部。

 そんな中、CJ5月号(4月25日発行)の冒頭ページで、CJとモンモを統合した新雑誌『CJ Monmo』(シージェイ モンモ)が創刊されることが発表された。

 CJのホームページには、統合の経緯が次のように書かれている。

   ×  ×  ×  ×
 シティ情報ふくしま(CJ)創刊から36年、Monmo(モンモ)創刊から17年が経ち、私たちを取り巻く環境は大きく変化しました。インターネットの台頭により情報の集め方が変わり、雑誌には専門性や独自の視点、より一層の正確性が求められています。また、東日本大震災を通し、地域との〝繋がり〟を再認識し、故郷について考える機会が増えました。そして、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大により、さらに生活環境が一変。友人や職場の仲間との外出・外食控えに伴い、一人や家族での〝おうち時間〟の充実に関心が高まりました。一方、「地方移住」「マイクロツーリズム」が提唱され、〝ローカル〟に注目が集まってきています。

 こうした時代や環境の変化を受け、読者の〝新しい生活スタイル〟に寄り添いながら、福島での生活がもっと楽しく、豊かになるような情報提供を目指し、新たなタウン情報誌を創刊することに至りました。

   ×  ×  ×  ×

 新たに創刊される『CJ Monmo』は毎月25日発売で、定価550円。発行部数3万8000部を予定。販売エリアは県全域に拡大され、A4判のオールカラーとなる。

 新刊の8月号では県内の道の駅をメーン特集に据え、エリア特集では郡山市を予定している。

 CJ編集長の加藤恵理子さんは新雑誌創刊への意気込みを次のように語る。

 「CJが長年関係を築いてきた福島市の企業様をベースにしつつ、手始めに郡山市など主要都市のエリア特集を組みながら、県内のあらゆるエリアに広げていきたい。それぞれのエリアの魅力を伝えていければと思っています」

 新雑誌の見本を見ると、グルメのアップ写真や綺麗な風景写真を大きく、ふんだんに使った構成で、どちらかというとモンモ寄りの誌面づくりとの印象だ。

 県内出版業界の事情通は新雑誌創刊の狙いをこう分析する。

 「モンモの売れ行きは好調で、逆にCJは販売冊数を年々落としていたようです。エス・シー・シーでは一昨年、昨年と赤字を計上していますからね。コロナ禍で飲食店の広告が激減し、かなりキツイと聞いている。こうした理由からCJとモンモを統合し、対象エリアも一気に広げて誌面刷新を図ろうとしたのでしょう」

 民間信用調査会社の帝国データバンクによると、エス・シー・シーの決算は別表の通り。売上高は年々落ち込んでおり、2019年は3600万円の赤字。2018年も申し訳程度の利益で実質赤字と言っていい。

画像1

 なぜCJは不振に陥ったのか。いまから16年前の2005(平成17)年1月号と今年(2021年)1月号のCJを比較したところ、その原因が見えてきた。

近年は大幅ページ減

 ①総ページ数

 2005年は202ページで、2021年は124ページ。実に78ページ、割合にして38・7%も減少していた。バックナンバーを調べると、おおむね200ページで推移していたのが、2018年1月号188ページ、2019年1月号148ページと直近2、3年で大きくページ数が減少している。

 単純に考えて、ページ数の減少は広告収入の減少を示していると言える。

 ②特集記事

 2005年1月号は▽通がうなる「ラーメン15杯」▽お正月まるわかり完全ガイド(ピックアップ新春!!お得情報、初売り・福袋・バーゲン、クルマ初売り・キャンペーン、新春グルメ、新春アミューズメント、ヘアサロン&ビューティー新春キャンペーン、年越し&カウントダウンイベント、初詣スポット)▽スクールガイド▽年末年始テレビ&ラジオ▽ゲレンデイベントガイド▽フリー&グループで飲み放題できるお店を紹介 お正月・成人式・新年会「とことん飲みMAX▽ブライダルふくしま。

 2021年1月号は▽福島ゲレンデガイド▽寿司・海鮮丼ランチ1000円▽魅惑のあんかけ中華▽新春!ふくしまクイズ50問▽2021年新春初売り&キャンペーン(福袋・グルメ・スクール・美容)▽見つかる理想のフィットネスジム。

 特集内容が共通しているのはゲレンデ、福袋、グルメの情報。2005年にあって2021年に無い特集はテレビ・ラジオの番組表、年越しイベント、新年会、ブライダルの情報。逆に、2005年に無くて2021年にある特集はクイズ50問とフィットネスジム。

 テレビ・ラジオの番組表が消えた理由は、インターネットの台頭やスマートフォンの普及で必要性がなくなったことが挙げられる。年越しイベント、新年会、ブライダルの情報が消えたのは、新型コロナウイルスの影響と思われる。

 興味深いのはクイズ50問とフィットネス特集で、前者は子どもをターゲットにしており、後者は健康志向の高まりやコロナ禍によって生まれたトレンドと言える。

 ③広告

 2005年1月号の表紙裏はサンコンタクト(コンタクトレンズ)、裏表紙はドコモ。2021年1月号の表紙裏は東京中央美容外科、裏表紙はカーナデンタルクリニック。

 これは読者層の変化を如実に表しており、2005年のCJは10~20代、現在のCJは30代以上の読者を想定していると考えられる。

 また、大企業の広告宣伝費が変化していることも影響しており、出稿先が新聞や雑誌からインターネットにシフトしている側面もあるだろう。

 ④価格

 2005年1月号は320円、2021年1月号は460円。金額にして140円、率にして30%近い値上げは負担感が大きい。なお、CJは2017年7月号にリニューアルされ、サイズがB5判からA4判に変更されたことに伴い450円に値上げ。現在は、そこからさらに10円値上げしている。ページ数は減っているのに値段が上がっては、読者は納得しないだろう。

 CJの売り上げが減少した大きな要因として、新型コロナウイルス感染拡大の影響で居酒屋など飲食店からの広告収入が激減したことが考えられるが、実際はどうなのか。

 「コロナ禍による影響は少なからず受けています。県内経済を支える企業様とともに成長してきた弊社としては、街全体の活気がなくなれば、その分だけ売り上げも落ち込むし、実際に飲食店の宴会情報などの需要は減りました。ただ、新しい生活スタイルに合わせてテイクアウトやランチメニューの情報にシフトすることで、お付き合いを継続させていただいています」(前出・加藤編集長)

 そんなCJと、売れ行き好調とされるモンモの統合について、加藤編集長は

 「実は、両誌の統合はコロナ禍以前から長いスパンをかけて検討してきた構想で、時代の変化に適応させる意味合いが強い。背景には、活字離れやウェブサイトの台頭で、雑誌に求められているものが変わってきていることが挙げられます」

 と話す。

 『CJ Monmo』の媒体資料によると、新雑誌の戦略の柱は①メーンターゲット設定、②ウェブ戦略、③県産品販売だ。

 ①メーンターゲット設定

 新雑誌では「アラフォー子育てパパ&ママ」(35~44歳男性・女性)、「いきいきアラフィフ女性」(45~54歳)、「アクティブ独身女子」(30~39歳)を読者ターゲットに据えている。

 確かに20年前のCJを読み返してみると、10~20代の読者を想定した記事構成だった。筆者は当時高校生で、高校生や大学生のスナップ写真を掲載する企画記事が人気だったのを覚えている。

 一方、現在のCJは親子向けのお出かけスポット・グルメや美容・病院などの情報が多い。20年前にはなかった「ハッピースマイル写真集」という企画記事もあり、子どものスナップ写真を掲載している。

 先述の「広告」の変化を見ても分かる通り、2005年は携帯電話の学割キャンペーンをPRするドコモだったが、現在は美容整形や歯科医院がメーンだ。

 記事・広告の変遷から見て取れるのは、20年前に10~20代だった読者層が、そのまま年を取って現在も変わっていないことだ。言い方を変えると、それ以外の世代の新規読者は取り込めていない、ということになる。

 新たなメーンターゲットの設定で新規読者を開拓できるか。

ウェブと通販に活路

 ②ウェブ戦略

 新雑誌が見据えるのはウェブの活用だ。CJのウェブメディア「日刊シティ情報ふくしまWeb」の月間訪問者数は23万4793ユニークユーザー(2020年5月)、SNSのフォロワー数はフェイスブックが約6500件、ツイッターが約1万件、インスタグラムが約1万3000件、ライン登録者数が約1500件となっている。

 県内のウェブメディアの中でもトップレベルの影響力を持っている。読者層は年を取ったかもしれないが、だからと言って10~20代から全く支持されていないわけではないのだ。

 「2017年7月にCJをリニューアルしたとき、CJのウェブサイトとして立ち上げたのが『日刊シティ情報ふくしまWeb』です。雑誌とウェブ、それぞれの強みを生かした情報発信を行っています」(加藤編集長)

 4年かけて築き上げたウェブ力を新雑誌でどう生かすのか、その戦略が注目される。

 ③県産品販売

 エス・シー・シーでは今年3月、県産品の取り寄せ通販サイト「Monmo良品」を立ち上げた。

 同サイトは広告主のおすすめ商品を無料で掲載し、商品売り上げの一部をマージンとして受け取る仕組みになっている。

 大手通販サイトのアマゾンや楽天と差別化が図れれば、これまで獲得してきた読者とウェブユーザーを生かすことができる、新たな売り上げの獲得が見込めるはずだ。

 前出・印刷業界の事情通は、2017年7月のCJリニューアルはこんな事情があったと明かす。

 「モンモの売れ行きが好調だったため、売り上げを落としていたCJもモンモに寄せた構成や誌面にした方がいいのではないか、という意見が内部で出たようです。加えて、親会社の日進堂がA4判用の印刷機械を導入した時期と重なり、経営陣からその機械を活用できる形をとれ、というお達しもあったようです」

日進堂印刷所の判断

 日進堂の直近2年間の決算は、2019(令和元)年12月期が売上高30億3300万円、純利益6400万円、2020(令和2)年12月期が同30億6700万円(前期比101・1%)、同1850万円(同28・9%)。純利益は落ち込んだものの、コロナ禍の中で売り上げは微増している。

画像2

日進堂印刷所

 エス・シー・シーや日進堂グループの㈱進和クリエイティブセンターは自治体関連の刊行物の編集・制作に多く関わっており、当然ながら印刷は主に日進堂に発注される。エス・シー・シーと進和クリエイティブセンターは日進堂の営業的役割も果たしているわけだ。つまりエス・シー・シーで赤字を出したとしても、グループ全体で黒字なら御の字、と。

 ただ、そうは言っても赤字の常態化は経営者として黙っているわけにはいかず、テコ入れせざるを得なかったというのが本音だろう。

 肝心の読者の反応はどうなのか。CJ愛読者の50代男性はこんな感想を述べる。

 「正直、CJはリニューアル前の安っぽさが良かったんですよね。その方が書店やコンビニで買いやすい。今のCJは買いにくいというか、値段も上がっていますし……」

 筆者もCJ愛読者だが、年々読むページが減っているように感じる。正直、映画やイベントなどの情報はスマホで簡単に入手できるし、グルメ特集も、年を取ったせいかラーメンやデカ盛りを前面に出されてもテンションが上がらない。

 一方で、CJの新店情報で知った新地町の「つるしの湯」は個人的にお気に入りのサウナとなっており、貴重な情報源として重宝している部分もある。

 『CJ Monmo』が県内全域を対象とすることで、他誌の動向も気になるところだ。県内の主なタウン情報誌は、郡山エリアの『こおりやま情報FREE』『aruku』、会津エリアの『Voice!』、いわきエリアの『月刊タウンマガジンいわき』など。雑誌不況でどこも売り上げを落としていると聞くが、どのように部数を維持していくのか。

 もっとも、それは本誌にも言えることで他人事ではない。スマホが普及しウェブメディアが席巻する中、雑誌ならではの魅力を模索し発信していかなければならない、という意味では同じだ。

 一読者としては、新雑誌のコンセプトである「福島はもっと楽しい!」を体現してほしいと切に願うばかりだ。




よろしければサポートお願いします!!