横田一の政界ウォッチ②

米軍基地由来の沖縄「感染拡大」


 辺野古新基地建設の推進派(黙認派)の渡具知武豊市長(自公推薦)と中止を求める新人・岸本洋平元市議(立憲・共産・れいわ・社民などが推薦)が激突した「名護市長選」(1月23日投開票)は当初、2期目を目指す現職が総選挙での与党系候補勝利の勢いを駆って優勢だったが、オミクロン株の急拡大が逆風となって「告示日には両者がほぼ横一線に並ぶ激戦となった」(地元記者)。 最大の争点の辺野古新基地建設に加えて、米軍基地由来と見られる感染拡大が新たな争点として急浮上。「名護市長選16日告示 自民系候補、コロナで逆風か」(15日付産経新聞)と銘打った記事が相次いだのだ。

 集団感染が発生した米軍基地「キャンプハンセン」(沖縄県金武町)を訪ねると、自公推薦候補への逆風になることはすぐに分かった。水際対策の抜け穴を放置したまま、「世界で最も厳しい日本の水際対策をさらに強化する」と訴える岸田文雄首相の言行不一致を目の当たりにすることができたからだ。

 12月18日に米軍基地での集団感染を報じた地元紙2紙は、米軍基地関係者が繁華街に繰り出す写真を掲載。名護市長選の取材で沖縄入りしていた私は同夜に現地を訪ねると、驚くべき光景が広がっていた。基地入口のゲートを人も車も自由に出入りし、目の前の繁華街にマスクなしで繰り出す人もいた。店が立ち並ぶ路地を歩くと、大音量の音楽が流れる店でグラスを傾ける基地関係者(米兵ら)が歓談。壁に女性の絵が描かれた接待を伴う店も盛況で、隣の公園ではロックバンド大会が開かれて家族連れで賑わっていた。集団感染が起きていたのに基地関係者がどんちゃん騒ぎをしていたのだ。

 水際対策の抜け穴とはこのことだ。不平等な日米地位協定のせいで来日する米軍関係者には国内法が適用されずに、空港での検疫も外出制限も免れることができる。基地従業員の感染が確認され、感染者の隔離状態は完璧ではないことも明白だったのに、米兵らに外出禁止などの行動制限がかからなかったのだ。玉城デニー知事が行動制限を含む感染拡大防止策を繰り返し要望したのに政府に無視され、沖縄県の人口10万人当たりの新規感染者数は瞬く間に全国一となってしまったのだ。

 あまりに遅すぎる対応の岸田政権に対し、岸本陣営はチラシで「米軍の外出禁止、米軍にも検疫法など、国内法を適用できるよう日米地位協定改定を強く求めていきます」と訴えた。しかし岸田首相は、感染拡大の諸悪の根源ともいえる不平等な日米地位協定の改定を否定した。立憲民主党の泉健太代表は1月7日の会見で、岸田首相をこう批判した。

 「これまた、総理の聞く力の限界を感じます。地位協定の改定は多くの国民が望んでいることではないでしょうか。そこに触れずに、要は国民の命よりも米軍の行動を最優先に考えるということであれば残念ですし、私は先ほど話したように『2+2』(ツー・プラス・ツー=日米安全保障協議委員会)といった場でも真摯に地位協定の見直しを議題として挙げるべきだと考えています」

 と同時に泉代表は、日米地位協定見直しに対する党の考え方をまとめるように小川淳也政調会長らに指示。名護市長選の争点になるだけでなく、通常国会の論戦のテーマとしても急浮上したのだ。

 米軍基地由来の感染拡大を目の当たりにしてなお、不平等な日米地位協定改定を言い出せない岸田首相は、米国兵器爆買いを続けた安倍晋三元首相と瓜二つだ。「米国(米軍)ファースト・日本国民二の次」の“米国下僕政治”を忠実に継承しているともいえるが、当然、今夏の参院選でも大きな争点の一つになるのは確実だ。米国にモノが言えない岸田政権にイエスかノーかを問う天下分け目の決戦になるということだ。

よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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