見出し画像

〝エセ改革派〟の河野氏―【横田一】中央から見たフクシマ94

(2021年10月号)

 福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に邁進したアベ政治継承の菅義偉首相が9月3日、総裁選への不出馬を宣言、事実上の退陣表明となった。お膝元の「横浜市長選」(8月22日投開票)での敗北で菅降ろしの気運が一気に高まり、とどめの一撃となった形だ。

 先月号では「菅首相がこのまま選挙の顔として総選挙に突入すれば、自公が惨敗して枝野政権が誕生する可能性は十分にある」と予測したが、状況は一変。「自民党総裁選(9月29日投開票)」で、総選挙前に原発ゼロを掲げる新総理が誕生する可能性が出てきた。「脱原発」が持論の河野太郎・行革担当大臣が総裁選に名乗りを上げたからだ。

 しかし9月10日の出馬会見で河野氏は脱原発を封印した。会見場入口に積まれていた政策パンフレットを見ると、「脱原発」の文言が消え失せ、「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策をすすめます」としか書かれていなかったのだ。

 そこで開始15分前に会場に現れて写真撮影を一通り終えた河野氏に、「脱原発が抜けたのは何か理由があるのか。政策パンフレットに入っていなかった。(原発推進の)安倍さんに日和ったのか。忖度をしたのか」と声をかけたが、一言も発することなく、スタッフに導かれて会場からいったん退出した。

 約1時間15分の質疑応答でも、安倍前首相への忖度が際立った。出馬会見を終えていた岸田文雄・元政調会長や高市早苗・元総務大臣と同様、森友問題再調査を「必要ない」と否定。脱原発についても「安全が確認された原発を当面は再稼働していく。それが現実的なのだろうと思う」と変節したのだ。そこで私はこう質問をした。

 「森友再調査をしないことと原発再稼働を認めることは明らかに後退で、小泉純一郎元首相は『原発なしでも現実的に電力は不足しない』と訴えているが、『自民党をぶっ壊す』と言った小泉さんに比べると、(古い自民党を)壊そうという気概が感じられない。安倍さん、麻生さんの長老支配を打ち破る考えはあるのか」

 河野氏はこう答えた。「安倍さん、麻生さんがどうだとか、小泉純一郎さんがどうだということではなくて、河野太郎としてこの日本を引っ張って参りたいと思います」。

 あまりに抽象的回答なので「原発再稼働は(脱原発から)後退しているのではないか」と再質問をしたが、司会者が「一人一問でお願いします」と遮り、河野氏は変節の理由を具体的に述べることはなかった。

 ちなみに全国講演行脚で脱原発を訴え続ける小泉元首相は、原発稼働なしでも電力不足に陥らなかった現実について「2013年9月から15年9月まで原発ゼロでやってこれた」と強調、世界に先駆けて原発ゼロを実現したとも語っていた。

 それに比べて河野氏は「原発稼働ゼロでも電力不足にならない」という現実を無視、「再稼働が必要」という虚構(妄想)を口にする原発推進論者へと転向した“エセ改革派”と言っても過言ではない。“原子力ムラ内閣”とも呼ばれた原発推進の安倍前首相の支援を得るために忖度したとしか見えないではないか。

 2001年の自民党総裁選で「自民党をぶっ壊す」と訴えた小泉元首相と“改革派”を標榜する河野氏を重ね合わせる見方もあるが、中身は似て非なるものだ。結局、自民党総裁選はコップの中の争いにすぎず、多数の福島県民が望む「原発ゼロ」の実現には総選挙での政権交代(枝野政権誕生)が不可欠なのだ。「原発のない脱炭素社会の実現」を共通政策で掲げた野党連合が次期総選挙で勝利するのか否かが注目される。

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


通販やってます↓


よろしければサポートお願いします!!