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放出を阻止できなかった「敗因」の検証を|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㊹

 東京電力・福島第一原子力発電所(「フクイチ」と略)での「ALPS処理水」(注1)の海洋への希釈放出(≒投棄)は、残念ながら2回目(10/5~23)も終了しました。

 2回目までで放出された放射能量は、まとめの通りです(東電公表の資料に基づく/注2・3)

 放出が開始されてしまったのを機会に、私は、自分のブログに「フクイチの汚染水(処理水)放出までの経緯 2012年11月~23年8月」と題した記事をアップし、2013年3月末の既設ALPSによる処理開始から放出までの経緯を年表形式で、分かる限りでまとめました(注4)。

 内容を紹介する紙幅は有りませんが、約10年間の経緯を改めて振り返ると、自らの取り組みも含め、所謂「市民運動」の弱さを痛感せずにはいられませんでした。

 若干、自らの取り組みを振り返ります。

 私が所謂「フクイチの汚染水問題」を追いかけるようになったのは、2014年4月28日に「第12回 汚染水処理対策委員会」(注5)を傍聴したのがきっかけです。

 この時のことは拙ブログ記事に書いたものを引用します(注6)。

 ===引用ここから===

 この会議で、汚染水の貯留容量に関する質問があり、東京電力・福島第一廃炉推進カンパニーの松本純バイスプレジデントは、大要、次のように答えていました。

 1、貯留タンクは、「原子炉建屋からある程度の距離を取り」「複数タンクが設置できる区画」に設置している。

 2、上記条件でタンクを設置していくと、タンク容量は約89万tが限度となる

 ===ここまで===

 私は、松本氏の回答を聞いた時、「貯留量が89万㌧に達したら、その後は?」という疑問が真っ先に頭に浮かび、「物理的な限界が来れば、必然的に、海洋に放出せざるを得なくなるのではないか」との危機感を抱きました。これが、汚染水問題を追及する契機でした(注7)。

 金曜行動(主催・首都圏反原発連合)等でのスピーチ、ブログ・ツイッターでの発信も、いつしか汚染水が中心になりました。その根底には、「フクイチでのタンク容量・貯留量の限界は必ず来る」という危機感に近い問題意識がありました。

 市民運動も、一時期は「海洋放出の阻止」を目標として、実績も上げていました。

 2018年8月には、ALPS小委(注8)の公聴会で、「放出反対」の意見を表明した市民が、経産省の事務方・小委のメンバーと実質的な質疑に持ち込み、事実上、論破したこともありました(長いので経緯は割愛。詳細は拙ブログ記事に記載/注9)

 ところが、この公聴会を頂点に、市民運動は失速していきます。

 金曜行動は最多の20万人から参加者が減り続けており、減少傾向は止まりませんでした(コロナ禍の中で、反原連は2021年3月に街頭での行動を終了)。

 ALPS小委の報告書が提出された後、経産省が「処理水の処分方法」に関して実施した任意のパブコメは106日間(約3カ月半)で提出件数4011件でした。

 その後のパブコメの件数や、それに関する私の意見は本年6月号に書いた通りです(注10)。

 私自身は、本誌での連載も含めて頑張ったつもりですが、個人の頑張りは結果とは別物です。

 何を言ったところで、「核災害由来の放射性液体廃棄物の意図的な投棄」を阻止できなかったのです。それが現実です。敗北なのです。

 この国には約1億0500万人の主権者がいます。約9年の時間も有りました。タンクの空き容量や貯留水の増加量という元の数字は同じですから、誰が計算しても答えは同じです。

 ここで、「『概ね予想できること』で、約9年の時間が有って、1億0500万人もの主権者がいたのに、どうして、意図的な投棄が阻止できなかったのか」という疑問が浮かびます(端的に言い換えるなら、「9年間もあって、1億0500万人は何してたの?」という問いかけです)。

 私自身も含めて、「反原発」や「核のリスク」を訴えてきた、所謂「市民運動」の9年間の取り組みや努力は、何が不足し、何が間違っていたのでしょうか?

 核災害を起こした政府・東電が、放出を決定し、実行したことは批判しなくてはいけません。可能なら今からでも中止させなければいけません。

 ですが、政府・東電を批判するのと同じ重みで、先の疑問への検証もなされるべきでしょう。

 「放出開始」は、政府・東電の勝利であると同時に、主権者の敗北です。勝因だけではなく、敗因、つまり「阻止できなかった理由」も自らの責任で検証し、検証結果を主権者としての意識や行動に取り込まなければいけません。

 「政府・東電・報道が悪い」「市民は頑張った」で済ませて、敗因の検証を怠れば、私も含めて、この国の主権者は将来に於いて同じことを繰り返すでしょう。

 注1/一度でもALPS(多核種除去設備)で放射性核種の濃度低減処理を施した放射性液体廃棄物。当連載では簡略化の為「処理水」と記載。

 注2/放出水の核種別濃度

https://www.tepco.co.jp/decommission/data/analysis/pdf_csv/2023/2q/measurement_confirmation_230622-j.pdf (第1回分・2023年6月22日公表)

https://www.tepco.co.jp/decommission/data/analysis/pdf_csv/2023/3q/measurement_confirmation_230921-j.pdf   (第2回分・9月21日公表) 

 注3/放出水量

https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2023/2h/rf_20230911_1.pdf    (第1回分・2023年9月11日公表)

https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2023/2h/rf_20231023_1.pdf    (第2回分・10月23日公表)

 注4/2023年10月15日付記事

注5/https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/20140428_01.html   (経産省)

 注6/フクイチの運命は2016年秋までか(2014年5月1日付記事)

http://plaza.rakuten.co.jp/haruhasi/diary/201405010000/?scid=we_blg_tw01

    注7/貯留容量は、その後、2023年前半までに140万㌧強を確保

 注8/正式名称は「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」
 

 注9/ALPS処理水に関する公聴会の意義と役割~意見総数は179件~(2018年10月7日付記事)

 注10/自ら「不戦敗」を選びつつある主権者(連載39回)


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