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〝地元発〟1Fモニュメント案の危険性―【尾松亮】廃炉の流儀 連載34

 もう一度、原子力規制委員会の更田豊志前委員長が提案した東京電力福島第一原発「デブリ取り出し断念案」の問題点を考えてみたい。

 昨年9月28日、日本テレビのインタビューに答えた更田氏はデブリの取り出しについて次のように述べている。「できるだけ量を減らす努力はするけど、あとは現場をいったん固めてしまう、安定化させてしまうということは、現実的な選択肢なんだと思います」。

 更田氏は以前から「燃料デブリを取り出さない選択肢」をほのめかす発言をしてきたが、今回の発言は一歩も二歩も踏み込んでいる。これが規制当局責任者の本音、国の側の既定路線であることが読み取れる。

 この「廃炉断念案」を東電が拒む理由は何もない。少なくとも経営陣は、これまでずっと「廃炉の最終的な姿は決まっていない」「地元や関係者と相談して決める」と言ってきた。東電経営陣の観点からは、「廃炉断念案」に規制委員会がお墨付きを与えてくれるのなら願ったりかなったりで、人員や予算を柏崎刈羽原発再稼働に集中することが可能になる。

 それでは「地元」や「関係者」と呼ばれる人々は、この「デブリ取り出し断念案」を受け入れるのか。東電や政府が喉から手が出るほど欲しいのは「地元関係者」からの「デブリは取り出さず福島第一原発を解体せずにおいてほしい(安全管理ぐらいはするが)」という要望であろう。恐ろしいことにというか、これに類する提案が出され始めているのだ。

 例えば松岡俊二早稲田大教授は、デブリ取り出しにこだわらず廃炉の多様な形を示すことや、事故原発を遺構として残すことで次世代に教訓を伝えることなどを提案する。同教授は次のように述べている。

 「1F廃炉に終止符が打たれなければ、福島の復興は実現しません。終止符を打つというのは、負の遺産である事故を起こした原子炉を、未来世代への教訓に変えることだと考えています。原発を観光資源として活用する『ダークツーリズム』が流行しましたが、私たちが考えているのは、もっと人類社会全体に役立つような遺産です。広島の原爆ドームは、戦争の悲劇を次世代に伝え続けています。21世紀は『災害の世紀』だといわれますが、原爆ドームのように、福島原発事故の教訓も未来に継承しなければなりません」(「福島第一原子力発電所(1F)という負の遺産を21世紀の原爆ドームに変える」2021・2・26=傍線筆者)

 松岡教授は福島県内の住民も参加する研究会を主宰し、提案や報告書を発表している。この1Fモニュメント案は地元住民からの発意としてまとめられ、研究会の参加者の意図はどうあれ(場合によっては意図に反して)、政府や東電に「地元のお墨付き」として活用されるだろう。

 筆者は「早期デブリ取り出しを目指せ」というつもりは全くない。それが合理的で安全かつ政府による永久の管理責任を伴うものなら、「デブリ取り出さない案」を全否定するつもりもない。

 ただしそれは「廃炉の終止符」でも「伝承施設」でもなく、加害企業と政府による危険施設の放置、原状復帰責任の放棄であり、最低限東電の解体が条件になる。その法的責任を問わないままのモニュメント案は事故責任免責案につながる。

おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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