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ハンフォードモデルを問う③―【尾松亮】廃炉の流儀 連載28

 かつてプルトニウム製造がおこなわれていた米国ハンフォード核施設サイト(Hanford Site)では「深刻な汚染が生じ」環境除染や施設解体が実施されてきた。
  しかし、ハンフォード・サイト内で「放射能汚染を低減させた」地域に住民の定住を促す政策が実施されたわけではない。

 「ハンフォード周辺地域」とされる3都市中、最もハンフォード・サイトに近いリッチランド市でも核施設サイトから15マイル(約24㌔)以上離れている。

 浜通り復興の参考例として紹介され「ハンフォード地域」と呼ばれるこれらの都市は、問題となる核施設から一定距離離れている。同地域の研究機関も指摘しているが、避難指示が出るほどの直接の放射能汚染を受けた地域ではないのだ。

 しかし復興庁は「汚染地域の復興と定住促進」を可能とする根拠として、このハンフォード地域を紹介してきた。米国ハンフォード・サイト周辺地域では「放射能汚染が発生したが、人口増加・経済発展を実現した」(だから福島第一原発周辺地域でもそれが可能)というのである。

 このハンフォード・モデルを適用しようとする計画は、浜通りの自治体の政策にも取り入れられている。

 2020年1月には「放射線汚染から全米有数の繁栄地域へと発展したアメリカ・ハンフォード地域に、浜通り振興のヒントを学ぶべく」双葉郡8町村、いわき市、および学校法人昌平黌(いわき市)が連携協力協定を結んだ。東日本国際大(学校法人昌平黌)が、ハンフォード周辺地域に関する調査研究の知見を実際の復興に生かすため、各自治体と協定を働きかけたという。

 この協定締結について伝えた大熊町のリリース(2020年1月25日)では、ハンフォード周辺地域の成功例が次のように紹介されている。

「プルトニウムを精製する米軍の核施設群があったハンフォード地域は、周辺に放射性物質が放出されたことによる深刻な環境汚染問題を抱えています。しかし、環境回復作業(クリーンアップ)と、産学官連携を中心とした経済発展により都市力を上げ、2013年には全米6番目の人口増加率を記録する発展を遂げました」

 ここでもやはり、「放射能汚染を受けた地域」で人口増加・経済発展を実現した成功例として「ハンフォード地域」が紹介されている。

 事故原発隣接地では、元々の地域住民でさえ帰還・定住することをためらう、或いは断念せざるを得ない状況がある。「福島第一原発の廃炉完了」については法的拘束力のある約束は何もされていない。

 この状況で事故原発周辺地域、「何を完了とするのかもあいまいなままの廃炉現場」の隣接地に、新しい住民が多く移住・定住することを期待できるのだろうか。

 その期待を作り出し、政策を正当化するために「ハンフォード地域」という物語が、事実と違う形で作られた。その実世界に存在しないモデルを浜通りにあてはめ、地域復興のためというスローガンで政策が推進されている。

 その政策は元々その地域に住んでいた住民のため、ではない。

おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。
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