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時の流れと人の営みを一途に記しつづける印刷業(後編)

IT化が進む一方で、印刷業の市場規模は急激に縮小している。後編では、鳥取から大阪に単身で出て、印刷業を営み続ける福山社長が手掛けるサービスを紹介する。ITに置き換えられない会社の強みとは何か。
(※当時の内容に変更を加えず掲載しています)
前編はこちらから


株式会社新風書房 代表取締役 福山琢磨氏
聞き手:
北村真吾/中小企業診断士

取材日:2017年11月6日 掲載:旬刊政経レポート2017年12月15日号)



活字印刷業を営む福山社長はサービス開発にも積極的です。その中の1つ「自分史作り」とはどのようなサービスですか。

 誰でも自分の半生を手軽に書けるよう、印刷会社がお手伝いするサービスです。
 当初は私が経営していた活版印刷会社の一事業でしたが、本格化させるため新風書房を新設しました。日本経済が成熟期に入り、高齢化が予想され始めた昭和59年、私が満50歳を迎えた時です。

執筆経験のない人がいきなり自叙伝を書けるものなのでしょうか。

 一般的には難しいでしょうね。
 ただ、活版印刷を営んできた当社には調査、取材、執筆、編集のノウハウが蓄積されています。
 「自分史を作るためにはこういう記入項目が必要」というので独自に開発したのが「記入式自分史ノート」です。年次順に400の質問項目を設け、該当する質問に答えて書き込んでいけば自分史が出来上がるという便利なノートです。
 この「記入式ノート」は画期的商品として新聞テレビで紹介され、一方、私は5年間かけて全国を講演行脚して回りましたので、大ヒットしたのです。
 自分史作りサービスを始めて33年。当社を通じて約1000人もの人が自分史を作られました。全国各地の代理店64社を含めれば、このサービスでこれまで何人が自分史を作られたのか数えきれません。


新風書房4

(自分史作りのための質問項目。福山社長が指す先には「母の得意な料理、その作り方」とある)


対象顧客が一般消費者になりますね。マーケティングはどうされていますか。

 自分史を作りたい人は全国にいます。当社だけでは対応できないので、日本各地の印刷会社と連携しサービス提供しています。
 顧客開拓は印刷会社任せにせず、私自らがやっています。流れはこうです。
 まず、各地域で連携してくれる印刷会社を決めます。次に私がその地域に行き、一般消費者に向けて自分史作りセミナーを開きます。セミナー参加者が実際に自分史を作るとなれば、その地域で連携する印刷会社の出番です。彼らが執筆のお手伝いをしながら印刷、製本します。これで全国どこでもその人ならではの自分史が完成します。
 ここでのポイントは、いかにセミナーに集客するかです。セミナー告知には、地元新聞に取り上げてもらう方法が有効です。その地域で連携する印刷会社の経営者と一緒に地元の新聞社を訪問し、自分史作りセミナーを記事にしてもらうよう働きかけます。
 この方法を繰り返し、連携先を1社ずつ増やしていきました。

今や印刷業界はデジタル化が進み、活字は過去の遺物だそうですが。

 つくづく、活字とは不思議なものだと思います。1字1字の単体で見れば意味をなしませんが、組み合わせると素晴らしい記事が、文学が、物語が生まれるのです。言葉は時代に合わせて日々変化します。でも、文字そのものは変わることなく多くの人の心を動かし続けるのです。
 そんな不思議な魅力を持った文字の仕事がパソコンを駆使しながら続けられていることをうれしく思います。

(おわり)


【企業情報】
株式会社新風書房
代表者:福山琢磨
事業:活字印刷業、編集・出版サービス業
所在地:大阪府大阪市天王寺区東高津町5-17
従業員:20人(グループ全体)
資本金:1,000万円

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