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時の流れと人の営みを一途に記しつづける印刷業(前編)

印刷業にあこがれ、15歳で単身、鳥取県を離れた福山琢磨氏(83)。就職先の大阪は、大小多数の印刷会社がひしめく日本有数の激戦区だった。印刷業の中心地で同氏がたどった道のりを追う。
(※当時の内容に変更を加えず掲載しています)

株式会社新風書房 代表取締役 福山琢磨氏
聞き手:
北村真吾/中小企業診断士

取材日:2017年11月6日 掲載:旬刊政経レポート2017年12月5日号)



福山社長が印刷業界に入ったきっかけは何でしたか。

 私の生まれは鳥取県上北条村(当時)の農家です。戦争が終わった2年後の昭和22年に河北中学校に入学し、佐々木春千代校長先生の勧めで学校新聞を作り始めました。
 先生や同級生に取材した文章を読んでもらうため、ガリ版で作る楽しさを知ったのはこの時です。
 その頃、上井(あげい)に活字印刷の会社がありました。当時では珍しかった活字印刷の不思議さ、面白さに家に帰るのを忘れて、作業の様子を見入っていた記憶が強烈です。
 本格的な活字印刷に関わりたいとの気持ちで、中学を卒業した私は大阪市内の小さな印刷会社に住み込みで働くことになります。
 版(はん)を組む先輩に活字を文選して渡したり、使った後の活字を元のケースに戻したり。まさに下積みですね。それでも私にとっては、あこがれの活字にふれ合える職場です。
 仕事が終わっても職場に残り、飽きることなく活字を組む練習などしていたものでした。


印刷業界における「活字」とはどういう意味でしょうか。

 活字とは、反転した文字を浮き彫りにした鉛文字のことです。日本語にはひらがな、カタカナ、漢字、数字などがあるので、活字の種類は数万に及びます。
 それらを原稿に合わせて1文字1文字組み合わせたものを活版といいます。この版にインキを付けて紙に転写すれば印刷物の完成です。

新風書房2

(印刷に用いられる活字。同じ文字でもフォントやサイズの違いで複数の種類がある)


小さな印刷会社で下積みをした後はいかがでしたか。

 もっと高度な活字印刷、もっと多くの人に見てもらえる仕事がしたくて、新聞社の印刷工場に転職しました。同時に夜間高校に通い始めます。中学に続いてここでも新聞部に迷わず入部しました。
 知り合った他校の新聞部員たちと、私はこんな取り組みを始めました。複数の高校の新聞をまとめて私の勤め先に発注し、印刷を早く、かつ安価にするのです。その後、私は新聞社を辞め、この取り組みを本格的に事業化することにしました。
 この事業が現在の会社の前身となります。鳥取県を離れて14年目のことでした。


印刷は大阪の地場産業です。当時の御社ではどのように差別化していましたか。

 他の印刷会社と異なる私たちの特徴は、大量の活字を用いた文章の印刷が得意だったことです。
 活字を組むのには手間がかかります。校正や編集もせねばなりませんし、印刷工程も複雑になります。写真やデザインが得意な印刷会社は多くありましたが、私たちのような文字専業のところはあまりありませんでした。
 この特徴をそのまま会社名にしました。その名も「新聞印刷」です。大量の文字を必要とする新聞、文集、報告書などを印刷したい企業や官公庁が電話帳で私たちの会社名を見れば、すぐに発注するだろうと考え名付けました。
 結果はねらいどおり。学生新聞だけではなく、業界新聞や企業の社内報なども手掛けるようになり、事業基盤が拡大していきました。

福山社長は、この新聞印刷から独立したグループ会社、新風書房の代表でもありますね。後編では新たに開発したサービスについてお聞きします。


後編に続く



【企業情報】
株式会社新風書房
代表者:福山琢磨
事業:活字印刷業、編集・出版サービス業
所在地:大阪府大阪市天王寺区東高津町5-17
従業員:20人(グループ全体)
資本金:1,000万円

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