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特定業界への徹底集中により独自の立ち位置を確保する翻訳サービス業(後編)


会社設立から18年。智頭町出身の中野社長は自社を、顧客数300社、年間受注件数2200件にまで成長させた。同社の過去経緯と、中野社長の人間性についてお聞きする。(前編はこちら


株式会社メディカル・トランスレーション・サービス
代表取締役社長 中野尚徳

聞き手:北村真吾/中小企業診断士

取材日:2017年5月23日 掲載:旬刊政経レポート2017年6月15日号)


 翻訳業、しかもメディカル特化となると事業範囲は広くはないですね。なぜこのような会社を設立しようと思ったのですか。

 私は事業範囲が広いことは必ずしも良いこととは考えません。会社を設立したのは私が42歳の時です。この会社を早く、しかも確実に軌道に乗せるには、メディカルに専門特化した方がよいと判断しました。理由は2つあります。
 1つ目は営業活動のしやすさです。翻訳を必要とする業種は製造業や建設業、娯楽業や観光業など、多種多様です。「どの業種でもできますよ」と不特定多数の業種に営業をかける大手ライバルに対し、当社は「メディカルに特化しています」という営業トークで、製薬会社や医療機器メーカーを集中的に開拓しました。
 2つ目は専門人材の確保のしやすさです。専門用語が多いメディカル業界では、業界知識を持った人材が欠かせません。「メディカル専門の翻訳会社」を名乗ることで、専門性の高いスタッフが自然と集まりやすくなるのです。
 営業面からも人材面からも、「何でもできます」という会社より、専門特化する会社の方が事業展開はスムーズです。

 事業範囲を絞った展開で、設立当初から業績は良かったのでは。

 まったくそんなことはありません。設立当初、知り合いを頼りながら営業活動したものの、受注件数がなかなか増えませんでした。にも関わらず、会社員を辞めたばかりの私は自由さに気が緩み、お金を使う一方。一時はキャッシュが回らず会社をたたもうとも考えました。この会社でやっていける手応えを得られたのは、東京での仕事が増えてきた頃です。設立から3年かかりました。
 私は英語もできませんしメディカルの専門家でもありません。代わりに優秀な人材を採用し優遇しています。当社が今日までやってこれた要因は、間違いなく人材の優秀さによるものです。私の努力によるものではまったくありません。
 むしろ、資金繰りの重要性を知らず浪費をしていた18年前の自分を「ちゃんと足元を見なさい」と叱りたいぐらいです。

 英語もメディカルも専門ではない中野社長の自慢を教えてください。

 翻訳の見積が早いことです。金額のことではありません。この英語の報告書を日本語にしたら、もしくはこの日本語を英語にしたら何ページになるかの見積です。この判断の早さは日本有数ではないかと自負しています。

 中野社長は智頭町ご出身と聞きました。地元には戻ってらっしゃいますか。

 思えば鳥取県に長年帰れていません。先日、テレビの旅番組で私が卒業した智頭町立山形第一小学校が取り上げられていました。長い長い木製の廊下を掃除させられたなと、なつかしい気持ちになりました。また機会があれば地元に何らかの貢献をしたいと考えています。

(おわり)


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(同社の入り口に置かれた招き猫。穏やかな表情で仕事と人材を自社に引き込む中野社長とだぶって見える。)


【企業情報】
株式会社メディカル・トランスレーション・サービス
代表取締役:中野尚徳
事業内容:医療系翻訳業
所在地:大阪市淀川区宮原5-1-28
従業員数:18人
資本金:1000万円

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