見出し画像

特定業界への徹底集中により独自の立ち位置を確保する翻訳サービス業(前編)

自動翻訳の高度化と働き方の多様化で、翻訳の価格競争が激化している。東京と大阪でメディカル翻訳会社を経営する智頭町出身の中野社長は、どのようなマーケティングと組織構築をしているのか。

株式会社メディカル・トランスレーション・サービス
代表取締役社長 中野尚徳
聞き手:北村真吾/中小企業診断士

取材日:2017年5月23日 掲載:旬刊政経レポート2017年6月5日号)


 ―御社の事業内容を教えてください。

 当社は医療分野に特化した翻訳サービス会社です。1999年に創業し今年で18年目を迎える当社は、製薬会社や医療機器メーカーからの依頼を受け、臨床試験の報告書などを英語から日本語に、もしくは日本語から英語に翻訳しています。
 海外で開発、商品化された薬や機器を日本で使用するのは簡単なことではありません。多くの試験や調査を経た上でようやく販売許可が下ります。
当社のクライアントが報告書をやり取りするのは厚労省の関係機関なのですが、試験や調査の各段階で当社へ翻訳の依頼があります。
 実際の翻訳作業には、当社に登録している約500人の翻訳者が当たっています。


 ―日本には翻訳関連企業が約1000社あります。その中で御社が選ばれる理由は何でしょうか。

 同業者の中には納期の早さや値段の安さで勝負する会社もありますが、当社はサービス品質の高さで勝負しています。
 具体的には、社内に優秀なチェッカー(校正担当者)を多く抱えていることです。原文と翻訳文を複数人でチェックすることで、翻訳品質が保たれています。当社のチェッカーたちの医療に対する知識は、恐らく他社より高いのではないかと思います。
 私は、品質を落としてまで納期や金額の厳しい仕事を、無理に受注しようとは思っていません。
 以前、こんなことがありました。ある外資系大手クライアントから翻訳を依頼されたのですが、かなり安い金額だったので私は敢えて断りました。社内から不安の声も聞かれる中で、「いずれこのクライアントの仕事は戻ってくる」と伝えました。
 案の定、1年後には発注が戻ってきました。安価な代わりに品質の低い業者の仕事ぶりが不満だったのでしょう。
今や当社は、その会社における翻訳外注シェアの1位になっています。この出来事は、当社スタッフにとって自信や誇りになっていると思います。
 我々の翻訳は文章として社会に残ります。受注時の納期や単価がどうだったにせよ、一度世に出てしまうと後から言い訳はできませんからね。
いつ、どこで、誰に見られても恥ずかしくない、丁寧な仕事を、今後も続けていくつもりです。


 ―高いサービス品質の源泉は人そのものと言えそうですね。

 採用方針は「優秀な人を採用する」。これに尽きます。加えて、翻訳者の仕事ぶりを適正に評価できる人材も重要です。
当社のスタッフは、営業マンも含めてみなTOEICで900点台です。当社には翻訳レベルを評価する独自基準があります。外注する翻訳者の登録は約500人ですが、実際に安心して仕事を任せられると判断できるのは上位20%です。通常の仕事はこの人たちにお願いしています。
 また、翻訳は在宅勤務しやすい職種なので、社内外のスタッフは女性が多いです。優秀な女性が長く働けるよう、育児休暇制度を積極的に取り入れています。


 ―独自の組織体制で高品質なサービスを提供されているのですね。後編では、御社の過去経緯と中野社長ご自身についてお伺いします。

(後編につづく)

画像1

(中野社長が現在取り組んでいる案件。専門用語が多く自動翻訳では正式な書類にはとてもならない)


【企業情報】
株式会社メディカル・トランスレーション・サービス
代表取締役:中野尚徳
事業内容:医療系翻訳業
所在地:大阪市淀川区宮原5-1-28
従業員数:18人
資本金:1000万円

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?