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ゼロポジションを獲得する〜上腕骨と肩甲骨の位置関係が重要なファクター〜

ゼロポジションは、挙上位での肩の中間位と言える重要なポジションです。そのため、肩関節の治療の一つの目標として設定されることも多かと思います。しかし、肩の90°屈曲位からゼロポジションまでの過程で難渋することが多いのも事実です。

そこで、今回は、ゼロポジションを獲得するための治療介入の流れを解説します。

ぜひ、日々の臨床に役立ててください。


♦︎ゼロポジションは要支持関節における中間位

まずは簡単にゼロポジションの復習です。一般的に、ゼロポジションは挙上130-140°程度で、肩の回旋が起こらず、肩甲棘と上腕骨の配列が一致する肢位と言われます。オーバーヘッドスポーツの選手への介入の文脈で重要視されることが多いかもしれません。

ただ、よく考えてみると、肩の中間位はもう一つありますよね。挙上30-40°、肩甲骨面挙上、内外旋中間位(この記事では、この肢位を中間位と呼びます)のことです。肩甲上腕関節で考えれば、ゼロポジションも中間位も上下や前後の軟部組織の張力が一致するという観点では違いがありません。

これら2つの肢位にはどんな違いがあるのでしょうか。これは、懸垂関節(hanging joint)と要支持関節(needing support)という2つの視点から見えると整理できます。

肩中間位は懸垂関節における中間位、ゼロポジションは要支持関節としての中間位です。

つまりは、肩甲骨の機能が重要なファクターになります。腕の位置が変わってもあるべきところに肩甲骨が移動できるかがゼロポジションの獲得に重要です。

次からは、中間位は取れるという前提で、ゼロポジションを獲得するまでの過程を2つの段階で分けてみていきます。

♦︎60°〜90°:懸垂関節から要支持関節への移行

肩甲骨面での挙上が60°を超えると、肩甲骨は要支持関節への移行の準備を始めます。要支持関節を作るには、肩甲骨は👇の図のような動きが求められます。

関節窩が上を向く時には基部側は下がる

このフェーズでの肩甲骨は、上方回旋をしているのですが関節窩の位置が上がるのではなく、関節窩の向きが上を向くという形をとります。つまり、関節窩に上を向く能力があるかを評価することになります。

必要な肩甲骨のモニタリングを👇の画像でまとめました。

それらのポイントをそれぞれ見てきます。

①肩甲骨が全体的に上方移動しないか

60°を超えて挙上するとき、要支持関節を作る準備そのものができていない場合、肩甲骨を挙上させる代償が生じます。肩甲骨の挙上が起こった時点で次のフェーズに進むことができません。

肩甲骨の挙上は60°程度から起こる可能性があります。次の画像をご覧ください。

セラピストの肩甲骨の触れている手の動きに追従できるか

もし、上方移動がないのであれば、肩甲骨を触れいている手を押す力が感じられないので、上方移動がないと判断できます。60°を超える時に肩甲骨を触れいている手を全体的に押し上げるような力を感じたら、それはすでに肩甲骨が上方移動している証拠です。

このような上方移動は、肩甲上腕関節の位置を変えたり、肩甲胸郭関節の位置を変えながら行うと消失する場合があります。

②肩甲棘基部は下方移動できているか

関節窩が上を向くということが、その反対側にある肩甲棘基部は下方に下がる必要があります。もう一度、肩甲骨の動きのイメージの画像をご覧ください。

関節窩が上を向く時には基部側は下がる

操作時に肩甲棘に指を伸ばしてモニタリングして肩甲棘全体の動きを判断します。当然、本当に基部のところまで指は届きませんが、肩甲棘のモニタリングポイントを触れている指で2点作ることができれば、「近位よりも遠位のポイントが下がった」と言う感覚を得ることができます。

③肩鎖関節で上方回旋できるか

肩甲骨の上方回旋と聞くと、運動学的には胸鎖関節を支点として上方回旋をイメージする方が多いかもしれません。しかし、肩鎖関節での上方回旋もかなり重要になります。

次の画像をご覧ください。

示指または中指を使い、中節骨を肩峰に、末節骨を鎖骨に置くようにします(この時に意識すべきポイントは、👈のリンクからご確認ください)。60°を超えたあたりから肩鎖関節に意識を配分し、中節骨で鎖骨に対する肩峰の動きがあるかを確認します。

イメージとしては、肩峰の鎖骨側が鎖骨のより下に潜り込むような感じです。肩鎖関節を支点にした上方回旋により、関節窩は上を向くことができます。

♦︎90°〜140°:要支持関節の形成過程

要支持関節への移行準備が整ったら、次は要支持関節の獲得に向けて90°以降のフェーズに入ってきます。ゼロポジション獲得に向けて必要なポイントを以下の画像にまとめました。

今回も順番に見てきます。

①肩甲棘基部の稼働移動の継続の有無

このフェーズでも肩甲棘が下に下がれるかが重要です。要支持関節の移行期まででの下方移動だけでは、ゼロポジション獲得に必要な関節窩向きを形成することができません。

基部の下方移動はゼロポジション獲得まで常にモニタリングする必要があります。肩甲棘基部と肩甲骨の上角は頸部と同様のラインに存在するので、頸部からの影響を多分に受けることが想像に難くないでしょう。

②前腕の中心で支えて体幹をコントロール

90°以降からゼロポジション獲得までの上肢の操作方法にも気を配る必要があります。次の画像をご覧ください。

患者さんの前腕の中心を支えにする

👆の画像では、右手で手首を持っていますが、上肢を操作する手には使いません。上肢を挙上方向に動かす動力は重力を利用します。

患者さんの前腕の中心をセラピストの上肢の中心で下支えして、ブレーキをかけます。

上肢を挙上させる時の具体的な操作はセラピストの体幹を使います。肩甲骨をモニタリングしながら関節窩が向いている方向に対してセラピストが胸骨を向けるよう位置を調整します。かつ、姿勢に注意しながら体幹を側屈しながら上腕をコントロールしてきます。

上肢が90°から120°、ゼロポジションと進んでいくと関節窩の向きも変わっていくので、都度セラピストの自身の位置や向き、姿勢を変えていくことが重要になります。

③肩鎖関節および肩甲骨の向き

ゼロポジションは肩甲骨の向きが一致する位置です。つまり、ゼロポジションとは、要支持関節を完成させたとき、肩鎖関節や肩甲上腕関節が中間位にあることです。

ゼロポジション付近のセラピストの様子

👆の画像のように、ゼロポジションに近づくと、上腕骨の向きと肩甲棘の向きが一致しているか、そして肩鎖関節が中間位にあるかどうかを確認します。

肩鎖関節は、要支持関節への移行期には上方回旋などを必要としますが、ゼロポジションに近づくにつれて鎖骨の挙上などもあり、一旦中間位に戻ります。そこから外転方向に上肢を誘導する時に、鎖骨が挙上位ある中で更なる上方回旋が肩鎖関節に求められるために外転制限が発生しやすくなるのです。

♦︎これまでの内容を動画解説


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