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【エッセイ】 思い出の一打

小学生の頃、地域の野球チームに所属していた。
野球をしたことがある人なら誰にだって「思い出の一打」があるだろう。

地区大会の一回戦。
不運にも、優勝候補の強豪チームと当たってしまった。

相手ピッチャーから繰り出される速球に、三振の山が積み重なる。
かくして、私の第二打席は回ってきた。

追い込まれる前に、積極的に打ちにいった。
次の瞬間、鈍い音がした。

ボールがショートのほうに転がるのを確認して、後は夢中で一塁ベースを駆け抜けた。
審判の両手が水平に広がるのを見て、内野安打になったのだと分かった。

チームは俄然活気付いた。
その回、それまで沈黙していた打線が嘘のようにつながり、私は、チーム初得点となるホームベースを踏んだのだ。

結局、試合には負けた。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
試合後の私は、強豪チームに一矢を報いるきっかけとなるヒットを放てたことの満足感でいっぱいだった。

特大の満塁ホームランでも、劇的なサヨナラヒットでもない。
私の思い出の一打は、あの時のボテボテの内野安打だ。

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