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寿司屋のぶぶづけ

自転車がなくなった。盗まれたとかじゃなくて、1日しか停めちゃいけない臨時駐輪場を勝手に常設駐輪場にしているので普通に撤去されたのだろう。
しかも私の自転車にはドラえもんの字体で「羅生門」と書かれた激ヤバシールを貼っているので、盗まれるどころか隣に停める人もあんまりいない。
 
ネットで地域の撤去自転車が集められている場所を調べると、歩きで30分くらいの所だった。なので天気のいい日に散歩がてら行ってみた。
ウチのある通称・ゲロの街を通り抜け、全ての家がスイッチ式で門を開閉する超絶高級住宅街を経て、犬の吠え声がめちゃめちゃ聞こえるペットホテルがある汚めの街が目的地だった。オセロだったら高級住宅街が消滅するところだった。危ない。
 
 
折角知らない町まで行ったのに自転車だけ取って帰るのは悲しい。ということであらかじめ会社の人に聞いておいたコスパが良すぎる回らない寿司屋にも行った。
12貫セットで3,300円と寿司のお値段にしては中間層くらい。なのにやたらと美味い。というか、ネタがデカい。サーモンとかアナゴとかは普通の寿司3貫分くらいの長さがあった。カウンターに座らせてもらって、職人さんが目の前で握ってくれているのも見ていて楽しい。美味しすぎてかなりゆっくり食べ、食べ終わってからもしばらく日本酒をちみちみ舐めながら留まっていた。

「あれ、マグロの海苔巻き、出したっけ?」
目の前の職人さんから言われた。セットの内容に入っていたかあまり覚えていなかったが、
「あ・・・いや、いただいてないかも」
というと光の速さでマグロの海苔巻きが出てきた。ふと時計を見るともう座ってから2時間半も経っていた。2時間半? 冷たい熱帯魚の長さじゃん。寿司屋に留まっていい時間じゃなくて震えた。
後程確認すると、やはりコースの中にはマグロの海苔巻きは入っていなかった。
 
あれは寿司屋のぶぶづけだったのだろうか。おいしい寿司を安価で出すためには回転率が大事だろう。ザ・コンビニでも客の回転率を上げるために棚の導線をマス単位で調整していたことを忘れたのか。

ちょっと暗い気持ちで帰路についた。お酒を飲んでいたので自転車には乗れなかったし、7年ほど使っていた時計も落として無くしてしまっていた。

おわり。

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