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賃上げの参考書(5)どのような経路によって人件費が引き下げられていったのか③

2024年5月15日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利

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<概要>

*1995年に旧日経連が発表した『新時代の「日本的経営」』報告書では、職務内容や職務階層に応じた複線型の賃金管理を行い、成果・業績によって格差を拡大させるラッパ型賃金管理が打ち出され、成果主義賃金制度の導入による中高年層の賃金水準の引き下げをもたらすことになった。

*成果主義賃金制度は、資格等級制度において昇格する者を厳しく絞り込み、その結果として、中高年層になると限られた者しか昇給できなくなる制度、とイメージすればよいのではないか。資格等級制度に基づいて賃金が決定されるという点では、従来の職能給制度と同様だが、資格が職能ではなく、役割や職責に基づいたものとなっているので、資格等級も頭打ちにすることができる。

*中高年層では、従来型の職能給制度に比べ昇給する人の数が大幅に減少するので、結果として、年齢・勤続ごとの平均賃金水準が低下し、成果主義賃金制度導入前の賃金カーブを維持できない。バブル崩壊後の長期にわたるデフレ経済下においても、明確に「賃下げ」に踏み切った企業は多くなく、定昇も実施されてきた。それなのに直入者の中高年層の賃金水準が低下してきた(後述)のには、こうした事情がある。

*厚生労働省「賃金構造基本統計調査」で直入者・男の所定内賃金について、1995年と2023年とを比べてみると、40代前半が高卒・大卒とも4万円弱、40代後半が6万円前後、50代前半では高卒が約10万円、大卒が約8万円、それぞれ減少している。1995年には、50代前半の賃金水準は、高卒・大卒とも20代前半の3倍程度となっていたが、2023年には2倍前後に縮小している。

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