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(浅井茂利著作集)外国人労働者問題、これからどうするのか(1)

株式会社労働開発研究会『労働と経済』
NO.1666(2021年9月25日)掲載
金属労協政策企画局主査 浅井茂利

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 2017年11月に新しい外国人技能実習制度が施行され、2019年4月には外国人材受け入れのための新たな在留資格として、「特定技能」が導入されました。 
 厚生労働省の「外国人雇用状況の届出状況」によれば、2020年10月の外国人労働者数は、コロナ禍で雇用情勢が悪化しているにもかかわらず、前年同月に比べ4.0%、6万5千人以上増加しており、うち技能実習生は4.8%、1万8千人以上増加しています。また出入国在留管理庁によれば、2021年3月の特定技能労働者は22,567人で、毎月2千人を超えるぺースで増加が続いています。
 技能実習制度については「施行後5年を目途として」施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、検討を加え、所要の措置を講ずる、とされています。また特定技能についても、「施行後2年を経過した場合におい
て」制度のあり方について、地方自治体や事業者、地域住民その他関係者の意見を踏まえて検討し、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずる、とされていますので、両制度とも、実態を詳細に掌握し、必要な改善策を検討していくべき時期となっています。

新制度導入以降の技能実習生の状況

 2019年4月に導入された特定技能については、まだ実態が明らかではありません。しかしながら、 2017年11月からの新しい技能実習制度では、技能実習生の状況がますます悪化していることが明らかとなっています。
 失踪者(不法残留者)数は、新制度導入前の2017年1月1日時点では6,518人でしたが、直近の2021年1月1日時点では、13,079人と2倍以上に拡大しています。企業単独型ではとくに変化は見られず、団体監理型で激増しています。

 技能実習生の死亡事例に関しては、毎年、JITCO(国際人材協力機構)から発表されていましたが、新制度導入以降、定期的な発表は行われていないようで、2017年までのデータしか見ることができないようです。情報公開されていたものがされなくなったということだけでも、技能実習制度の適正化にとって大きな後退だと思います。

 技能実習を行っている事業場における労働基準関係法令の違反事業場数を見ると、2017年以降も激増を続けています。2016年と2019年とを比較すると、違反事業場数は7割増となっており、なかでも賃金台帳に関しては3倍増、賃金の支払いや割増賃金の支払いに関しては2倍増となっており、とりわけ、最低賃金に関しては、実に5倍増となっています。

 2017年11月からの新しい技能実習制度は、「優良」な受け入れ企業・監理団体を認定し、受け入れ人数枠の拡大や、3年を超えて5年までの受け入れを可能とすることにより、運用の適正化を促すことを目的としていたはず
でしたが、受け入れ企業における労働法令遵守に結び付いていないことは明白です。

低賃金の問題

 技能実習、特定技能に共通する問題として、低賃金ということがあります。両制度とも、「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること」が求められていますが、現実には、日本人と同等以上というよりは、
「法定最低賃金と同等」であると指摘されてきました(前述のように、法定最低賃金が守られていない場合も少なくない)。
 厚生労働省では、2019年の「賃金構造基本統計調査」から、外国人労働者の賃金水準を発表していますので、これが立証されるところとなっています。
 2020年6月時点では、地域別最低賃金の全国加重平均は901円となっており、これに対して、一般労働者・高校卒の所定内実労働時間あたり所定内給与額(製造業・規模計)は、19歳以下が1,091円、20~24歳が1,187円と、地域別最低賃金をそれぞれ200円、300円近く上回っている状況となっています。しかしながら外国人労働者の賃金水準を見ると、一般労働者・技能実習生は932円、特定技能労働者は1,017円に止まっています。地域別最低賃金と技能実習生の賃金水準との差は、わずかに31円で、これは、その年の10月に地域別最低賃金が例年のペースで引き上げられると、ほぼ吹き飛んでしまうような差にすぎません(ただし、2020年10月の引き上げ額は、コロナ禍により全国加重平均1円)。日本人と同等以上が確保されていな.いことは明らかだと思います。
 技能実習生は「実習生」だから、低くてもしょうがない、と考える人がいるかもしれません。しかしながら、最初の2カ月間の講習を終えれば、実習生という名称であっても、労働者であることに注意する必要があります。もちろん製造業では、すぐに一人前というわけにはいかないでしょうが、それは日本人の高校卒19歳以下の場合も同じです。
 特定技能労働者の賃金水準は技能実習生よりも「まし」ですが、それでも地域別最低賃金との差は116円にすぎず、高校卒19歳以下よりも74円、20~24歳よりも170円、低い状況となっています。
 本来、特定技能労働者は、「一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人」であるはずですから、当然、高校卒19歳以下の賃金水準を大きく上回ってしかるべきだと思いますが、そうなっていません。
 なお、特定技能労働者の賃金水準が技能実習生よりは高くなっている理由は、「一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人」だから、というよりは、次回で述べるように、受け入れ企業を変更する自由があるかどうかの違いではないか、と筆者は考えています。

送出機関の問題

 技能実習生になろうとする者は、母国の送出機関(技能実習生になろうとする者からの技能実習に係る求職の申込みを適切に日本の監理団体に取り次ぐことがでさる者)を通じて、日本に入国することになります。特定技能労働者や留学生の資格外活動として入国する際には、こうした機関を通すことは不要のはずですが、現実には、母国の仲介事業者が利用されているようです。
 こうした場合、送出機関や仲介事業者に対し、高額な手数料や保証金を支払わなくてはならず、多額の債務を負い、あるいは途中帰国などの場合に高額な違約金を支払わなくてはならない契約となっている場合があります。職を探す労働者が採用の費用を支払うべきではないという empIoyer pays 原則に反するとともに、ILO中核的労働基準に違反する人身取引、債務労働、強制労働として、外国人労働者に対する重大な人権侵害と言わざるを得ません。
 技能実習制度の送出機関については、
*所在する国又は地域の公的機関から推薦を受けている。
*技能実習生等から徴収する手数料等の算出基準を明確に定めて公表し、技能実習生に明示して十分理解させる。
*技能実習修了者(帰国生)に就職の斡旋等必要な支援を行う。
*当該送出機関又はその役員が、過去5年以内に
・保証金の徴収他名目を問わず、技能実習生や親族等の金銭又はその他財産を管理しない(同様の扱いをされていない旨技能実習生にも確認)。
・技能実習に係る契約の不履行について違約金や不当な金銭等の財産移転を定める契約をしない(同様の扱いをされていない旨技能実習生にも確認)。
*技能実習生に対する人権侵害行為、偽造変造された文書の使用等を行っていない。
などが要件として求められています。
 また技能実習、特定技能においては、不適切な送出機関、悪質な仲介業者の排除を目的とした送り出し国との「二国間取決め」を締結していますが、悪質な機関・業者への対応は、基本的に送り出し国政府に委ねており、また二国間取決め未締結の国からも受け入れが行われています。このため、こうした規定の網の目をくぐって、高額な手数料や保証金の支払いとそれに伴う債務、違約金の支払い義務などが発生している場合が少なくないものと見られています。
 米国国務省のとりまとめた「2021年人身取引報告書」では、(カッコ内は筆者注)
*(日本)政府は、技能実習生送り出し国であるバングラデシュ、ブータン、ビルマ、カンボジア、インド、インドネシア、ラオス、モンゴル、パキスタン、フィリピン、スリランカ、タイ、ウズベキスタンおよびベトナムとの間で技能実習制度に関する協力覚書(=二国間取決め)を維持した。
*協力覚書は、依然として、募集行為を規制する日本政府の主要な手段であった。しかし政府は、募集機関や送り出し機関による虐待的な労働慣行や強制労働犯罪について、送り出し国政府に責任を課すことができなかったことから、依然としてほぼ効力を発揮しないままであった。
*協力覚書は、技能実習生に高額の借金を負わせるような「過剰な金銭」を徴収することのない各国政府が認定する機関からのみ、実習生を受け入れることを確認した。しかし、こうした国の送り出し機関の中には、金銭(fees)の代わりに高額の「手数料(commissions)」を課すことで、金銭
の徴収制限を回避し、かつ自国政府の認定を受けた機関もあった。
*ゆえに、これらの国から来日する実習生は、一旦日本に入国すると、これまで通り借金による束縛の危険にさらされた。これは特に、技能実習生の中で最多となるベトナムの技能実習生に当てはまった。
*法務省、外務省および厚生労働省は、本報告書(2021年人身取引報告書)対象期間中に、79の送り出し機関による不正行為が捜査の対象となったと送り出し国に対して報告した。
*法務省、外務省および厚生労働省は、送り出し国に対して、募集費用徴収違反の申し立てへの調査を要求することが可能だが、送り出し機関を処罰し、あるいはこのような行為のために送り出し機関を締め出す決定は、送り出し国の当局の裁量に委ねられた。
*政府と送り出し国との協力覚書は、借金を理由に技能実習生を強要する主な要因のひとつである外国に拠点を持つ労働者募集機関による過剰な金銭徴収を防止する上で効果を発揮しておらず、募集を行う者と雇用主に対して政府は、虐待的な労働慣行と強制労働犯罪の責任を課さなかった。
と指摘しています。

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