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第31回(note特別篇) 成城学園内で撮影された映画 パート2

 今回も成城学園・成城大学構内で撮影された映画を、建物ごとに紹介していこうと思います。多くの映画に登場する成城キャンパスは、まるで映画会社のオープンセットのようです。
 
 前回ご紹介した『思い出の指輪』(68/松竹)は、清水道夫、小松久という本学学生(当時)が所属したGS(グループサウンズ)、ヴィレッジ・シンガーズの主演作だったことから、グラウンド、体育館、プール、テニスコート、旧中学校部室棟など、本学園の施設が多数撮影に使われた‶成城ロケ映画〟の一本。本作には、五十周年記念講堂(現澤柳記念講堂)前にあったミュージックホール内で、やはりGSのザ・ダーツが自身のヒット曲「ケメ子の歌」を歌うシーンもあり、GSマニアには堪えられない一作となっています。
 現在、ミュージックホールは「歴史記念館」に生まれ変わっていますが、木造時代のこの建物が見られる映画に、『有頂天時代』(51)という小林桂樹がアナウンサーを目指す新東宝映画と、舟木一夫のヒット曲をモチーフにした大映映画『続高校三年生』(64)があります。ホールの南側には自動車部の部室があり、徳大寺有恒氏(故人:自動車評論家)が在籍時には、しばしば三船敏郎が車で部室を訪れ、部員と交流を持っていたといいます。
 
 講堂前には、美術校舎のアトリエがありました。今では地球と生物の歴史を伝える「恐竜・化石ギャラリー」になっていますが、‶若大将〟シリーズや『続高校三年生』で、建て替え前の懐かしい姿が見られます。石濱朗が高校生を演じた切ない青春映画『まごころ』(53/松竹)では、中学校校舎側にあった日時計(現在では記念講堂前に移設)が確認できます。

(左)旧ミュージックホール (成城学園教育研究所提供。以下Ⓐ) (右)1991年に建て替えられた同施設(撮影:神田亨。以下Ⓑ)
旧アトリエの懐かしい姿。現在では、恐竜・化石ギャラリーとなる(Ⓐ)

耐震性の問題から、2021年に解体された中学校の本校舎。リニューアルの上、大学校舎として使用される予定だったのですが、残念ながら叶いませんでした。竣工したばかりの当校舎の姿がフィルムに刻印されているのが、‶若大将〟シリーズの第三作『日本一の若大将』(62)です。大学の校舎ではないにもかかわらず、この校舎が加山雄三の若大将が通う京南大学に設定されているのは、建築家・増沢まこと氏による斬新な意匠(デザイン)が東宝スタッフの目を引いたからに違いありません。
 この映画では、それ以前に使われていた中学校校舎(木造=のちに校庭となる)が同居している様子が窺えるほか、加山扮する大学生・田沼雄一が学生服姿であることも確認でき、実に感慨深いものがあります。ただ、成城の大学生に限っては、新入生向けのガイドブックに制服があると記載されていたこともあり、学生服で通う者は恐らく一人もいなかったはずです。
 旧校舎は、他にも先述の『まごころ』で、新校舎のほうは『続高校三年生』、『君たちがいて僕がいる』など、一連の舟木一夫の学園もの(いずれも64年公開)で見ることができます。

(左)のちに校庭=運動場となるところに建っていた旧中学校校舎(Ⓐ) (右)2021年に姿を消した中学校本校舎(Ⓑ)

 現在、大学9号館となっている校舎は、もともと中学校が第2校舎として使用していた建物。そして、それ以前にここに建っていたのが中学校の部室棟です。このレアな建物が見られる映画が斎藤耕一監督による『思い出の指輪』ですが、上記のとおり、本作は多くの学内施設の60年代末の姿に接することができる‶成城ロケ映画〟の代表的作品。DVDにもなっていますので、ご卒業生やかつての成城キャンパスに興味のある方は一度ご覧いただければ幸いです。成城池(初等学校では「ドーナツ池」と呼称)のほとりで山本リンダが「帰らなくちゃ」を歌い出すシーンを見れば、現地を訪ねてみたくなること必至です。
 
 この部室棟の崖下、成城池のすぐ北側にあったのが、ヘルスセンター(中央保健室)です。1971年に文連クラブハウス兼武道場となる当木造建物が写り込む映画には、小林正樹監督の長編第一作『まごころ』(脚本は木下惠介)の他、江利チエミがサザエさんに扮する『サザエさんの新婚家庭』(59)、やはり舟木一夫主演の学園もの『夢のハワイで盆踊り』(64)といった作品があり、いずれも成城池とともにフィルムに刻印されています。当保健室棟は、母の館が1967年に五十周年記念講堂に建て替わったとき、当建物地下一階に移転。ここで肺のレントゲン写真を撮った学生・生徒諸君も多いことでしょう。文連クラブハウスが本学映画研究部出身の熊澤尚人監督の熱いリクエストにより、『虹の女神 Rainbow Song』(06/市原隼人と上野樹里出演)のロケ地となったことは、以前ご紹介したとおりです。

(左)成城学園ヘルスセンター。手前は成城池(成城大学卒業アルバムより)(右)71年竣工の文連クラブハウス兼武道場。部室及び屋上が『虹の女神』のロケ地となった(Ⓐ)

 さて、最新の成城キャンパス・ロケ作品は何か? これまで紹介した中では、2006年公開の『虹の女神』が最も新しい作品ですが、実は意外な映画で成城大学構内ロケが行われているのです。その作品こそ、山田洋次監督による久々の寅さん映画『男はつらいよ お帰り寅さん』(19)。ここでは、大学7号館の大教室・007教室が、後藤久美子演じる泉ちゃんが出席する国連会議の議場として使用されています。画面を見ても絶対に分からないと思いますが、筆者はロケ隊を目撃。エンドロールにも「協力:成城大学」とクレジットされていますので、是非ご自身の目でお確かめください。
 
(パート3に続く)

【筆者紹介】
高田雅彦(たかだ まさひこ) 日本映画研究家。学校法人成城学園の元職員で、成城の街と日本映画に関する著作を多数執筆。『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『山の手「成城」の社会史』(共著/青弓社)、『「七人の侍」ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)の他、近著に『今だから!植木等』(同)がある。