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第29回 まだまだある成城ロケ映画 パート3

 住所こそ成城でないものの、一部が成城自治会の区域となるのが砧七~八丁目。ここは移転当初の成城学園が土地を整備した区画に当たり、成城と言ってもよい地域です。
 かつて労働科学研究所(現成城ハイム)前の踏切を渡ると、雑木林がありました。林の東側T字路で撮られたのが『三人よれば』(64)という〝三人娘〟映画。本作では、江利チエミが夏木陽介の運転するジープに乗って、砧を訪れます。
 
 宇津井健主演〝スーパージャイアンツ〟シリーズの一篇『宇宙怪人出現』(58)では、雑木林の北側にある仙川方向に下る坂道や、仙川を跨ぐ小田急線高架下の様子が窺えます。この林にはのちに「成城テラス」という低層マンションが建ち、藤村俊二さんが居住します。
 ‶成城ロケ〟のテレビドラマ『気になる嫁さん』(71~72)は、この坂を下りきったところにある清水家(当主は佐野周二)に榊原るみが嫁入りし、夫(佐野の次男・守)の死後も同居を続けたことから、義兄の石立鉄男らが気になって仕方がない、という内容でした。

坂道を下った左側に、榊原るみが嫁入りした清水家があった(筆者撮影)

 ここから仙川を渡ると、成城学園前駅方面に上る坂道があります。『お姐ちゃん三代記』(63)というシリーズものの一作では、この道からかつての橋上駅舎の姿が見られます。
 『気になる嫁さん』をはじめ、『太陽にほえろ!』や『赤い迷路』、『傷だらけの天使』、円谷プロの〝ウルトラ〟シリーズといったテレビドラマに度々登場した仙川の風景。映画では『華麗なる闘い』(69)で、川沿いの住宅が内藤洋子の家に設定され、‶優男〟の――当時はこうした役が多かった――田村正和が内藤を車で送る場面が撮られています。成城住まいで成城学園出身の田村正和にとっては、非常に身近なロケ地だったことになります。

(左)川の左側が『華麗なる闘い』で内藤洋子の家があった場所 (右)山口百恵と宇津井健、石立鉄男らが渡った「竜沢寺橋」。ショーケンも『太陽にほえろ!』の第1話で、この橋の袂で張り込みを続けた(筆者撮影)

 仙川沿いにあった成城大学の馬場。87年に伊勢原につくられたグラウンド&合宿所施設内に移転してしまいましたが、成城学園を象徴する施設として住民からも親しまれていました。その馬場や大学2号館(64年竣工)の姿が仙川越しに見られる映画に『バツグン女子高校生 16才は感じちゃう』(70)という映画があります。なんだかビミョーな題名ですが、テレビの『柔道一直線』(69~71)で人気者となった吉沢京子が主演した青春ものですので、安心してご覧いただけます。この馬場が小谷承靖監督の最高作と称される『はつ恋』(75)の舞台となったことや、『七人の侍』(54)の撮影に当部の馬が駆り出された秘話も、すでにご紹介したとおりです。部員たちは大蔵の撮影現場まで仙川沿いに馬を運び、野武士役のエキストラを担ったあとは、仙川の水でドーランや埃を落として、厩舎まで戻って来たとのことです。

成城大学内にあった馬場(成城大学卒業アルバムより)

 旧成城警察署脇の踏切(反対側には公益質屋があった)を渡ると、そこは砧八丁目。皆さんは、ここにあった「煉瓦屋」というレストランを憶えておられるでしょうか。当店を使って撮影されたのが、南果歩主演の『さよなら、こんにちわ』(90)という洒落たラブコメ映画です。のちに渡辺謙と結婚し、南がすぐ近くに居を構えたのは、このときの体験が影響しているのかもしれません。テレビでは、『ウルトラQ』(66)の「あけてくれ!」(再放送で初公開)で当踏切が重要な役目を担っています。主人公の万城目淳(佐原健二)がスポーツカーを運転中に、道に倒れていた男(柳谷寛)を救助、踏切で停まるとこの男は、題名どおりの叫び声を上げるのです。
 『アワモリ君乾杯!』(61)や『国際秘密警察 火薬の樽』(64)といった東宝娯楽映画で、この踏切の様子が見られることは、前回ご紹介したとおり。警察署脇なのになかなか開かない踏切だったので、反対(南)側で事件が発生したときはいったいどうやって対応していたのでしょうか?

ジェリー藤尾が歌い、三橋達也がスポーツカーで渡った踏切跡(筆者撮影)

 いちょう並木には、その名も「ポプラ」というレコード店がありました。レコード店はライオン長屋の「ミキ」と二店しかなかったので、成城の住人ならどちらかを利用したはずです。当店内で撮影されたのが、『銭ゲバ』(70/ジョージ秋山原作)という唐十郎主演のアングラ映画。外観が見られる映画には、松原智恵子主演の日活映画『愛するあした』(69)と岡田裕介主演の〝薫くん〟もの『白鳥の歌なんて聞こえない』(72)があり、テレビドラマでは『雑居時代』(73〜74)で石立鉄男が当店の前を歩いています。

夏木陽介がよく通ったというレコードショップ・ポプラ。(成城大学卒業アルバムより) 右はシンプルこの上ない「ミキ」広告(成城大軽音楽部コンサート・パンフレット掲載)

 東宝撮影所前の商店街が確認できる映画は数少なく、わずかに『娘ざかり』(69)という内藤洋子主演の青春映画があるのみ。テレビでは夏木陽介主演の『青春とはなんだ』(65~66)や『太陽のあいつ』(67)の第10話「とびだせ若大将!」(ゲストで加山雄三出演)で、商店街の様子が垣間見られます。

東宝撮影所正門前で営業していた「吉岡自転車店」(1960年頃:春山啓子氏提供)
※画像処理:PaC TaIZ / 岡本和泉
世田谷通りと水道道路が交差する所にあった「山口自転車店」(1960年頃:春山啓子氏提供)
※画像処理:PaC TaIZ / 岡本和泉
現在の同所。東宝撮影所の正門は、いまやスーパーと電気量販店の壁面に(筆者撮影)

 世田谷通りを渡った砧小学校では、以前ご紹介した『青い山脈』正続篇(49/原節子、杉葉子出演)や『しいのみ学園』(55/宇野重吉、河原崎健三出演)の他にも、青柳信雄監督の力作『モンテンルパの夜は更けて』(52)、『鋼鉄の巨人スイーパージャイアンツ地球滅亡寸前』(57)、『「粘土のお面より」 かあちゃん』(61/二木てるみ出演)など、多くの東宝&新東宝映画が撮影。かつて御料林だった東横学園小学校(現東京都市大学付属小学校)でも、『続社長千一夜』(67)の運動会シーンで森繁久彌、小林桂樹らお馴染みのメンバーが参加してロケが行われています。さらにはお隣の砧中学校が、前述の『青春とはなんだ』で舞台となる高校に見立てられるなど、撮影所近辺の学校は絶好のロケ地となったのでした。
 
 開校したばかりの明正小学校の生徒たちが撮影に駆り出されたのが、かの怪獣映画『ゴジラ』(54)です。参加した方の話によれば、子供たちが学校前の道路を逃げ惑う場面の撮影だったと言いますが、いくら映画を見てもこのような場面は発見できません。カットされてしまったのか、はたまた合成場面にでも使われたのか・・・、いずれにしても旧P.C.L.施設だった東宝撮影所分室(技術研究所)で造られたゴジラですから、‶生まれ故郷〟の成城を襲うはずはありません。

東京都市大学付属小学校。ここで森繁久彌や小林桂樹が運動会に参加するシーンが撮られた(筆者撮影)

※『砧』836号(2022年12月発行)より転載(一部加筆の上、画像を大幅追加)

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【筆者紹介】
高田雅彦(たかだ まさひこ) 日本映画研究家。学校法人成城学園の元職員で、成城の街と日本映画に関する著作を多数執筆。『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『山の手「成城」の社会史』(共著/青弓社)、『「七人の侍」ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)の他、近著に『今だから!植木等』(同)がある。