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ベビーブーマーの時代を追え

「若い頃、生きていくうえでお金ほど大事なものはないとよく思った。今こうして歳をとってみると、なるほどそうだと思う」

 これは英国の詩人で劇作家のオスカー・ワイルドの言葉ですが、まさに現実を素直に表わしていると私は思います。なにしろ「金は天下のまわりもの」「サラリーマンは気楽な稼業」と悠長に構えていられた時代はとうに過ぎてしまい、今や自分の身は自分で守る、それが出来なければ自己破産という厳しいご時世ですから金儲けに対する考え方も変わらざるを得ません。

 日本では長くお金は不浄のものと考えられてきました。だから金持ちは恨まれたり妬まれたりすることはあっても、尊敬されることはめったにありませんでした。

 典型的なのが時代劇でした。筋書きに出てくる商人は決まって悪徳奉行と酒を酌み交わし、金儲けをたくらむ。「越後屋お前も悪よのう」「何をおっしゃいます、お奉行様。ガハハハ・・・」という会話は是非もの。そしていたいけない娘が陵辱されたり正直者が殺された後に主役が登場して悪を叩きのめす。

 どうしてもっと早く助けないのだろうと思いつつも、何万回も繰り返された勧善懲悪に視聴者は心から拍手を送ったのです。極めて他力本願ですが、なんといっても最後にはお殿様も貧乏長屋の庶民も笑って終わる幸福感が魅力でした。最後は金持ちも貧乏人もない、なぜか皆が幸せでした。

 ところが最近ではIT革命やグローバル化の波に洗われて、日本の若者の間でも社会に広がる幸福感よりも個人の富に関心が急速に移っている気がします。マスコミも若くして巨万の富を築いたビル・ゲイツや孫正義さんを時代の寵児ともてはやしています。言い換えれば、金儲けは罪ではないという米国式の価値観がすっかり浸透しているのです。

 私は長く欧米のメディアの記者や不安定なフリーランスのニュースキャスターの仕事をしてきたため、普通の日本人サラリーマンよりは経済的自己防衛策を考えてきたように思います。

 だいぶ前、ある米国人大物投資家と会ったときに彼が私にくれたアドバイスは「インカムよりもアセットを増やせ」というものでした。彼曰く、「月給がいくら高くても会社が倒産したら無くなってしまう。不動産や債券、株などの金融資産にしておけば会社が潰れてもお金は増える」。

 なるほどごもっともな話でです。そこで私が注目したのはベビーブーマーの動向でした。ご存じのように、第2次世界大戦後に帰宅した兵士たちがせっせと子づくりに励んだため記録的な数の赤ちゃんが誕生したのがベビーブーム。日本でも少し遅れていわゆる団塊の世代が生まれました。私もそのひとりです。

 この世代の思考や行動は予測可能で、経済全体に与える大きな影響を把握することが人生の繋がる繋がると考えました。例えば、この世代が人生の新しい段階にさしかかると関連商品の需要が急激に上昇しました。しかし次の段階に映ると、別の商品やサービスが脚光を浴びるようになりました。

 当然のことながら最初のブームはベビー用品。続いて50年代に小学校の建設ラッシュが起こり、60年代にはフリー・セックスを叫ぶ性革命。70年~80年代には持ち家ブームが到来し不動産価格が急騰しましたが、労働市場にも人が溢れたため賃金は下がりました。

 しかし問題はこれからです。団塊の世代が人生の黄昏を迎えて何が起きるのか。はっきりしているのは次のふたつです。高齢化した団塊世代は政治的に保守化して安定志向になる。老後のための貯蓄と健康を真剣に考える。

 ところが、この世代の退職ラッシュが始まると(すでに始まっていますが)社会保障や退職金はパンクし、綱頼みの不動産も一部の都市部を除いて下落。働くことが出来なくなったブーマーがこぞって現金化するからです。しかし金利は限りなくゼロに近く、現金は目減りするばかり。

 残るは株式投資です。成長分野は先端医療、宇宙旅行を含むレジャー、仮想通貨・金融、新しいテクノロジーといったところでしょうか。資産ポートフォリオはできれば若いときから始めた方がいいですね。ただし、忘れてはいけないのは理論物理学者アルバート・アインシュタインの次の言葉です。

 「立身出世を願うより、価値ある人間になること」

 

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