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より巧妙になるドーピング(薬物使用)の薬物と手口。東京五輪は大丈夫か?

 「より速く、より高く、より強く」
  この有名なオリンピック標語には記録だけでなく、フェアプレー精神が含まれています。しかし今では勝つためには手段を選ばない薬物使用がスポーツ界の現実となっています。

 それが如実に表れるのがドーピング(運動能力を高める薬物使用)まみれとなった国際スポーツの祭典オリンピック。2020東京五輪も例外でありません。世界的な新型コロナウィルス感染拡大の影響で、国によってはドーピング検査が一時停止されたり、抜き打ち検査が難しくなっているからです。

 前回のリオデジャネイロ五輪では開催直前にロシアによる“国家ぐるみのドーピング隠し”が暴露され大混乱となりました。そのため違反リスクの高い10の競技・種目の選手をはじめ1333人に検査をしたところ、大会前に20件もの違反が摘発されました。しかし、この数は氷山の一角でしかありmせん。

 なぜなら、年々ドーピング薬物やその使用手段が巧妙になってきているからです。ドーピングは利用する選手側と検査官のイタチごっこなのです。検査技術が進歩すれば、その一歩先を行くように選手側は次から次へと新しいテクニックを使って検査の裏をかいてきました。

 例えば、ステロイド服用者は、その痕跡を隠すために別のドラッグを服用します。マスキング・エージェント(遮蔽物質)と呼ばれるものです。一般的には薬草から生成されたエフェドリンを使います。エフェドリンはビタミン剤にも含まれているので検出されても言い逃れができると考えられているからです。

 「血液ドーピング」という裏技も開発されました。選手からあらかじめ採取した血液を競技会の直前に同選手に輸血すると増加した赤血球が筋肉に多量の酸素を送り込んで持久力を高めるというものです。じつは私も取材したことがあるのですが、とんでもない方法を思いつくものだと驚かされました。

 血液ドーピングは88年のソウル五輪から禁止されましたが、近年ではヒト成長ホルモンというのも登場しています。世界アンチ・ドーピング機関(WADA)によると、競技力を向上させる成長ホルモン剤は検出が極めて難しいうえに効果が高いそうです。

 かつての大会では、禁止薬物を服用する女子選手の中には競技当日に友人からもらった尿をカテーテルという細い管をつかって自分の膀胱に注入して尿検査を潜り抜ける者もいました。もっと単純な尿サンプルのすり替えという原始的(?)な方法も発覚しています。

 そもそも、なぜそれほどまでしてオリンピックで勝ちたいのでしょうか。その答えは明らかです。有り余る栄光とカネです。選手だけではありません。国際オリンピック委員会(IOC),各競技連盟、医師、コーチ、テレビ局、スポンサー企業すべてが実質的な共犯者なのです。

 場当たり的な倫理観を振りかざしたマスコミや評論家が「フェアーでクリーンな大会にしなければならない」といくら説いたところで屁のツッパリにもなりません。なぜならあらゆるスポーツの商業化は留まるところを知らず巨額のマネーが動いているからです。その代表格が巨大スポーツイベント、オリンピックです。

 きっかけは1984年のロサンゼルス五輪でプロ参加や企業スポンサーが解禁されたことでした。今や五輪収入の9割以上は企業後援とテレビ放映権。人々の注目を集める金メダリストたちの経済的報酬は巨額になっています。選手にとってもスポンサー企業、メディアにとっても、常に人々が熱狂するヒーローが必要なのです。その手っ取り早い手段がドーピングというわけです。

 1989年、米短距離選手ダイアン・ウイリアムズは米司法委員会でコーチから筋肉増強のためにステロイドの服用を強制されたと証言しました。副作用でひげが生え、クリトリスが肥大化し、声が太くなったという生々しい証言が飛び出しました。

 驚いたことにドーピングの歴史は紀元前3世紀まで遡ります。古代ギリシャですでに選手が運動能力を高めるために様々な刺激薬を使用していたという記述があるのです。

 それ以降1999年にWADAが設立されるまでの約2000年間(!)、多かれ少なかれ運動能力向上薬は大した罰も社会的非難も受けることもなく使われてきたのです。

 薬物を使用した選手を袋叩きにして責任を押し付けてもドーピング問題は解決しません。ロシアのように国家が主導したケースや国際スポーツの界の構造的な薬物汚染にメスを入れる必要があるのです。

 東京五輪では、開会直前にドーピング関連で世界最高の技術力を持つといわれる韓国科学技術研究院(KIST)が、東京五輪サイドの要請を受けて、専門家を派遣することを明らかにしました。また、昨年末に米議会で圧倒的賛成多数で可決された薬物使用取り締まり強化を目指す「ロドチェンコフ反ドーピング法」が東京五輪が初めての適用になります。

 しかし、開会直前まで続いた様々なスキャンダルによる辞任・解任やコロナ対策の不手際をみていると、ドーピングに関しての不安も拭いきれません。

                 (写真はshutterstock.com)



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