見出し画像

我が家の愛犬「はくまい」日記(2)悲しみを乗り越えて

 自分でも驚くほど涙があふれてとまりませんでした。
 優しい目で僕を見つめる写真の前で、「ごめんね」と何度も何度も謝りました。
 8年間家族の一員として生活を共にしてきたゴールデンレトリバー「ハーブ」が、預けていたペットショップで散歩中に突然この世を去ったときのことです。
 原因は心臓発作ということでした。私は取材で東京を離れていましたが、駆けつけた妻がハーブの身体に触れたときにはまだ温もりが残っていたそうです。
 自由に走り回っていた一軒家から、狭いマンションへの転居がストレスになったのかもしれません。自分の至らなさに心が痛みました。
 亡骸はお寺の動物霊園で丁重に荼毘に付し、愛犬ハーブは家族の思い出になってしまいました。しばらくは夫婦で出かけても、ハーブがふさふさした尻尾をふりながら鼻をクンクンいわせて私たちの横を歩いている錯覚に襲われました。もう二度と犬は飼うまい、そう思いました。かれこれ15年ほど前のことです。


 それから2年後の春、どうしてもまた犬を飼いたいと娘が言い出しました。私たち夫婦は迷った末、結局「マンションでも飼える小型犬なら」ということで同意。ペット業界に精通している知人から信頼できると紹介されたペットショップのご主人を訪ねました。


 ドキドキしながら店内で待っていると、「この子がいいと思います」と手渡されたのは、手の平にのる程の小さな、白いトイプードルの赤ちゃん。その姿に、妻も娘も私も思わず叫びました。「かわいい!」 店主自身が飼おうと思っていた選りすぐりのワンちゃんを、特別に譲ってくれたのです。


 その日から、その子犬は我が家の新しい家族となりました。家の中が急に明るくなりました。愛犬と見つめ合うと、飼い主も犬も共にオキシトシンという幸福ホルモンが分泌されるそうですが、まさに身体も心も癒やしてくれる存在です。


 さて、なんという名前で呼ぼうか。洋犬だけど、今度は日本らしい名前がいい。「あんみつ」か「くろみつ」はどうか、いや「あんまん」もいいかも、などと話し合った末、全員一致で決まったのが「白米(はくまい)」。

 そう、あのご飯の白米です。なんともユーモラスでかわいい。お陰でご近所には「はくまいちゃん」とすぐに覚えていただいて、すっかり人気ものになっています。きっと天国のハーブも喜んでいることでしょう。君の弟は元気だよ。
           (読売新聞「交遊録」掲載記事に一部加筆)
 

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?