タイミング
タイミングっていうの。あるでしょう。実は息子が小さいとき、些細な夫婦ゲンカをしている最中、自分の口から思いがけずでた言葉があってその言葉が妙に頭から離れず、そのときからタイミングっていうのを大事にするようになった。「今年の夏休みはもう二度と来ないんだよ。だから今じゃなきゃダメなんだ。」なんで夫婦ゲンカをしたのかいまいち覚えていないけど、たぶん、夏休みに息子をどこに連れてってあげようかという話でモメたんだと思う。今では自分の大学の教え子たちや会社の若手、いやいやそういう上から目線という感じでもなくほとんどすべての人付き合いのなかでタイミングというのを大事にするようになった。「どうしたらいいですかね?」と質問されたとき、その瞬間に温めていた考えをぶちまける。日頃、粛々とその瞬間に向けて用意をするということ。聞かれてもいないのに主張したりするのはそれは野暮っていうもんじゃないか、と思うようにもなった。タイミングを計るというのはそれはそれでなかなかの辛抱強さが必要なんだな、っていうのもわかってきた。自分の考えやアイデアなんかをしたためていても、そのしかるべきタイミングに運良くでくわさないといわゆるお蔵入りということにもなる。それはそれで、ま、そういう運命だったんだな、とあきらめるしかない。「どう思いますか?」「ご意見うかがえますか?」「ねえ先生どうしたらいいでしょう?」「どう思う?」と言われれば待ってました!とばかりに堰を切る。そしてそれが過ぎたらまた静かに沈黙する。出会い、っていう言葉があるけど、これって人と人のことだけじゃなくって、場面そのもののことも言いますね。タイミング、っていうのは不思議とゆらゆらしていて、ど真ん中にきたり、近づいたかと思うと遠くへいってしまったりする、少年の日の恋のようなもんですね。