小さくコツコツくん

いやらしい話、アホに見せかけて他人がそこに乗っかるとしめしめとしたたかに物事を進めるような。例えば小学生の夏休みの宿題。「ぜーん、ぜん、やってないよ!やってられないぜ、遊んじまおうぜ!」なあんて友達をすっかり乗せておきながら実のところ毎朝6時に起きて毎日コツコツと宿題と読書感想文を仕上げ、それでも友達たちの前では「いえーい!夏休みは遊ぶためにあるんだぜ!」と大声で連呼し、8月にはコツコツと自由研究をやっているようなヤツ。実は僕はそんなヤツだった。よく覚えているのが、同じく小学校5年生の頃、みんなで校庭を毎日何周かを走って、その周回を競おうということになった。周った分、壁に貼られた大きな方眼用紙にマス目を塗っていく。僕はマス目が4つで正方形なので「毎日4周」と決め、きっちり4周だけやって教室へ戻った。初めのうちはみんな一生懸命で10周くらいやって教室へ戻る。とっとと先に戻っている僕に「やる気あんのかよ」といじられもした。「やってらんねえんだよ、バーカ」なあんて毒吐いたりして。先生からも「少しは真面目にやれ」と言われたくらい。毒を吐きながら本心では「これでいいのかなあ」と思いながら、それでも「きっちり4周」。しかし、雨が降ろうが台風が来ようが雪が降ろうが毎日きっちり4周。競争期間が半ばごろにじわりと僕がトップに躍り出た。そこから後半はぶっちぎりの独走態勢。しまいには用紙が一枚で足りずに2枚目、3枚目となっていた。毎日毎日きっちり4周。当然大きな方眼用紙の2枚目と3枚目には僕の塗りつぶしたマスだけが細く伸びている。1年間が終わって先生からの「よく頑張ったな」の言葉くらいしかご褒美はなかったけれど、この時、妙に自分の性格というのを悟った気がした。はて、今、糖尿病やぎっくり腰なんかに怯える年齢になってきて、この「小さくコツコツくん」は何か発揮してるだろうか。あのころの前半のように周りがぐんぐん先へ行っているのに「きっちり4周」しているだろうか。あのころと同じくらい「これでいいのかなあ」なんて思いながら日々は過ぎる。ただそれだけの話です。夏なんです。