旅する鈴木展 開催にあたって

今、この原稿をアメリカ大陸横断中のAmtrak の車内で書いている。DRAWING AND MANUALという名前の会社を創立して20年が過ぎた。名前を直訳すると「図画工作」。インターネットの草創期の1997年、これから始まるであろうデジタルの未来の中で、人がモノをつくるということとは何だろうかと考える場所としてクリエイターたちが集まった。そして20年経ったがまだ答えのようなものは見つかっていない。そんな中、つくることを頑固に考えてきた自分たちが、今度は生み出した作品を披露する場所をつくった。それが今回の展覧会の会場であるこの「FACTORY」。その記念すべき第一回の展覧会として企画したのが「旅する鈴木展」である。鈴木陵生、鈴木聡子のお二人は夫婦である。そして言うなればコンビ名のような名称が “ 旅する鈴木” なのだが、その一人、鈴木陵生氏はDRAWING AND MANUAL に所属していた映像作家の一人。かつて仕事仲間だったが、今では旅仲間と言ってもいい。旅をするということの大切さを分かち合える同志といったところだろう。そして、今、私自身も旅の最中である。窓の外にはアメリカの風景がゆっくりと車窓に流れている。実はここ最近、私はアメリカが嫌いになりそうだった。SNS などの情報が私の中でのアメリカの印象を変えてしまっていた。先日、19 歳になる息子と旅を計画した時にふと考えた。アメリカ大陸横断をしてみたい、と。そこには「ふれあい」という意味があった。情報で出来上がってしまった印象を、ふれあいを通じて確かめたいと思った。今現在、旅の3日目、セントルイスという街にいる。そして「生で感じるものには嘘がない」と、つくづく感じている。アメリカがやっぱり好きになった。いくつかの出会いがあった。優しさに触れた。さて、なぜ今「旅する鈴木展」なのかと問われれば、鈴木さんに会って聞いてみてください、と答えるだろう。旅する鈴木の活動や作品はネットなどでもいつでもどこでも見たり読んだりすることができる。でもそれは本当の意味で旅のことに触れてはいない。生々しい人のふれあいの中に見つける「大切なもの」は体感してはじめて感じるものだ。「旅する鈴木展」は鈴木さん夫婦二人が何年も世界中を旅をした体験を体感できるように展覧会にしたものだ。できるだけ、旅を感じられる展覧会に。展覧会に来てくださった方同士と鈴木夫婦が世界のどこかで再会する、なんていうことが起きたらこの展覧会の意味があったということではないだろうか。さっきまで曇っていた窓の外がすっかり晴れてきました。

展覧会ディレクター 菱川勢一 2019, March 25 Amtrak 車中にて

「旅する鈴木展」4月14日(日)まで

詳しくは https://factory0001.peatix.com/view