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スナック墓場 私の家ってなに①

実家は、田舎の山の中
大きなお寺の隣 つか、墓地の隣 

私の部屋は、後から増築した部屋だった     家相が悪いと母は反対したらしいが
父親はしつこく自室をねだる
小学生の長女(私)に根負けして
近所の大工さんにさっさと依頼してしまった                 

女の子の部屋ということで
田舎の大工の親方が信じる
精一杯のファンシーな感性で彩られた部屋

うるさい花柄の壁紙は当時としてもかなり
古臭いなんちゃってロココ調
ぶら下がった照明の傘は
プラ製の安っぽい花の形で
おまけにどぎついピンク色
洋間なはずだったのにクローゼットではなく
天袋までついた一間の押入れが作られて
襖紙の模様はなぜか口を開けた…魚
その名は鯉
この鯉は…やばかった やばかったねぇ

窓にはホムセンの特売で買ったと思われる
象形文字のようなチューリップ柄のカーテンがつけられ夜な夜なピンク色の明かりがつく
8畳の子供部屋

母方の祖母が、部屋の完成時にお祝いにきて
私の部屋を見て母に小さな声で
「どうして、もっとかわいい部屋にしてあげなかったの?」と悲しげに言った

いい部屋ネットも真っ青な初めてのマイルーム

「つぶれた寿司屋を無理やりスナックにしたみたい…」と祖母は更に母に言ったらしいが
お祝いにと母方の祖父母に買ってもらった
当時流行っていたパイン材のベッドが
とことん似合わなかった

壁紙も照明器具もカーテンも
普通はカタログとか見せて
客に選ばせるはずでは?
両親も驚いていた
勝手に進めた親方と軽く揉めたし
夫婦仲も悪くなってしまったが
ご近所の手前あまり大事にしたくないし
金も無いのですぐ直せなかったそうだ

結局、志望高校に合格しごほうびとして
壁紙、照明器具、カーテンを自分の好きな
シンプルな物に替えて
最大のウリではあったが押入れを
クローゼットにリフォームしてもらった

小学生の頃に遊びにきた友人達からは

「新しくてキレイなお部屋なのにぜんっぜん
うらやましくなぁい」
「お墓が見えて怖いしお魚の絵も気持ち悪い」
「変なお部屋でカワイソーネー」
とバカにされリピーターは少なかった

中学生になると嗜好の似た友人達も出来て
ついに「スナック墓場」というあだ名を頂戴しネタにされ始め不思議とリピーターが増えた
私はその部屋で勉強もせずマンガを読んだり
妄想に耽るばかりだった      


「スナック墓場」
窓を開けると風に揺れカタカタ音を立てる
卒塔婆と苔むした墓石の山、無縁仏の供養塔
柿の木の上に群がる騒がしい黒い鳥                  
なかなか
そう、なかなかとしか言えない風情があり
夜になるとピンク色の明かりがつく子供部屋

私自身は、なにか常ならぬことがあったとか
怖いと思うこと自体が全く無かった
隣に墓地があるのは生まれた時から当たり前

プライバシーが守られる部屋を
与えてもらったことが何より嬉しく
隙あらばベッドに寝転んで
好きなアイドルの取り口をぼんやり考えていた
(当時の私のアイドルは寺尾関 故錣山親方)

けれど、私が中1の頃、事件が起きた
家に遊びに来て私の部屋に泊まった
1つ年上のいとこAちゃん(中2)が夜中に
悲鳴をあげながら部屋から飛び出したのだ

半狂乱になっと「押入れの上に誰かいる❗️
引っ張って連れてかれそうになった 怖い」と泣き叫んだ
驚いた両親や祖父母が寝室から出てきて
「夢でも見たかな誰もいないよ 大丈夫だよ」と優しくいとこの背中をさすったり眠い目を
擦りながら皆でなだめたりした

実際誰も隠れたりしていなかったが
確かに閉めていた天袋の戸がガラリと開いて
机のうえに置いていた、いとこのリュックが
入っていた

寝ぼけていとこがやったんだろうと皆思っていたが、いとこはずっと泣きながら
天袋から黒い影が出てきて私を見ていた
そのうち 私の足を強く引っ張って天袋の中に
連れていかれそうになったが机にしがみついて耐えてるうちに居なくなったと訴えた

私はぐっすり眠っていて不審なことは何も無く
そんな話まさかありえないという感じだったし
いとこはその数年前の小学5年生時にも
黒い影の話をして不穏な時があったので
正直またかという空気もあった

以前の話は、町内会対抗運動会で起きたそうだ

小学校の校庭で行われた町内会対抗運動会に
参加したAちゃんが一人でトイレに行き
帰りに長い廊下でひとりきりになったら
黒い影に追いかけられ必死に走って逃げた
逃げても逃げても昇降口にたどりつかず
髪を掴まれ耳と頬を生臭い舌みたいなもので
舐められてやっと外に出られたと家族で座って
いたシートにフラフラになり戻ってきて
そのまま意識を失って倒れた
その後は高熱を出してしばらく学校を休んだ

普段は明るく可愛い子だったので
なんらかの感受性が強すぎるけど
思春期だからなのでは?
もう少ししたら治っていくんじゃないかと
希望も込めて大人達は話していた

部屋はそのあとも変わったことは何もなく
天袋もたまに不意打ちを狙うように
急にガラリと開けてみたりしたが
当然何もなく
私は部屋で安心してだらしなくくつろいだ

Aちゃんには悪いがどうせ嘘だろと
マセガキの私は思っていたからだ

確かに可愛いけどさ
皆に一番として扱われないと
へそを曲げるちょっとめんどくせーヤツ
かまってちゃんだべ
ド偏見120%の曇りきった冷めた眼で見ていた


ただ、いとこが、その後の親戚の集まりでも
何度もしつこくそのことを繰り返し言うので
小うるさくて拝むのがだいっすきな
親戚(長老)の耳にも入ってしまった

長老は静かに言った

この娘も心配だが
家になにかあれば一家が不幸になるから
念のために一度見てもらったほうがいい
ちゃんとした拝み屋を紹介する

と長老格の親戚があまりにもすすめるので
親が「拝み屋さん」を頼むはめになった

続く

次回は その拝み屋さんが来た日です









                                                         

    

                    


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