行かないで、と言ってみた。恋人は「ごめんね」とすごくさびしそうに笑い、そのあとで花のようにうつくしい言葉を私にくれた。行かないでって言ってみたかっただけ、少し困らせたかっただけなの。旅立つそのときに駄々をこねたくないから、先にわがままを言っただけ。ごめんね、ごめんなんて言わせて。

誰か私と魂が近いひとが、私がそのひとについて、あるいはそのひとのために紡いだ文章を読み、どうしようもなく私を愛おしく思ったり、胸がぎゅうっとなったりしたら、それは私が自分のもくろみ通りに文章を書けたことの証明なのだ。

私たちはことばだけで傷つけ合うことができてしまう。どんなに強く身体をぎゅっと抱いていても、ことばは人の心を射抜く。たとえどれだけ時間が経っても、それが放たれたときと同じ強さで人の心を傷つけたり救ったりする。そのことを理解しなくてはならない。だって1度放たれたら2度と戻らないから。