Jリーグを考える

僕はJリーグとともに生きてきた。と言ったら大げさに聞こえるかもしれないが僕の横には必ずJリーグがあったというのは決して間違った言い方ではない。だからこそJリーグの魅力をより理解しているつもりだ。しかし社会的なJリーグの価値はどのようなものなのだろうか。僕が見始めた頃からBS1の1試合中継とJリーグタイムくらいでしかテレビでJリーグを感じる機会はなかった。今回は30Jリーグ周年に寄せてプロモーション育成環境という観点からJリーグの可能性を考える

プロモーションの現状

広告効果や入場者数でよく比べられる野球とは大きな差があると思う。当たり前のように4万人弱が入る日本のプロ野球とは文化的にも距離的にも全く及ばないことは認めなくてはいけない。しかし競技人口などを見るとほかのスポーツに比べて圧倒的に優位であることも確かだ。
2019年、J1の平均観客数は2万人を初めて超えた。しかしコロナウイルスにより人がスタジアムから離れエンタメとしてのサッカーに制限がかけられその数は当時の水準まで戻っていない。1度離れた観客を取り戻すのはそう簡単ではない。今、Jリーグはさまざまなアプローチを試みている。それは今までにはなかった積極的なものだ。例えば「KICK OFF」を全国で放送したりGWにはCMを放映したり無料招待を行った。僕が小学生だったころにはJリーグがそういった活動を行っていたという記憶はない。それだけ力を入れてプロモーションを行っているということだ。しかし僕の周りではJリーグの単語をなかなか日常会話で聞かない。Jリーガーを知らない。テレビで取り上げない。Jリーグが決して間違ったプロモーションをしているとは思わない。しかしエンタメがこれだけあふれている昨今ではサッカーを見に行くという習慣がないのかもしれない。もちろんあくまで僕の周りの話であって逆にJリーグの話しかしないというどこかのクラブのサポーターの方もいるかもしれないが野球の12球団は言えてもJ1 18クラブを言える人は少ない。実際1万人を切るスタジアムもJ1で存在する。ここには大きな課題があると感じる一方でまだ新規を取り込む可能性も秘めているということでもある。

あまり社会に広がっていかない原因はサッカーという競技の性質がまずあげられる。
サッカーの性質として盛り上がる部分が少ないというのがある。得点がバンバン入る試合のほうが少ないわけであってお通夜状態になる試合もあり塩試合のほうが多いかもしれない。だから正直友達を誘いにくいという部分はある。せっかくネットが揺れてもノーゴール判定という場面ばかりだともどかしい。しかしこれは競技の性質上しかたのないことだ。だからむしろ点が入らなくても楽しめる見方を知ってもらうことが重要だ。例えばボールをどうやってゴールに運んでいくのかに注目してみればチーム内での約束事が見えてきて理解が増す。また、なぜそのプレーを選択したのかを選手の目線で見てみるとサッカーの奥深さに酔いしれるだろう。しかしこれは上級者向けになってしまい新規を取り込む方法としては現実的ではない。そのためピッチ以外でのエンタメ性を高めるということを考えてみる。例えばFC東京はmixiが経営に参入してから国立で花火を打ち上げたり大胆なプロモーションを行っている。また、京王とも連携をして毎日電車に凝って作られたPVを流していて露出を増やしている。ほかにも大分は練習を積極的に公開しレゾド1万人を目標に精力的な活動を行っている。Jリーグが目指すべき形はこういったものなのかもしれない。地域と連携しクラブから発信していくということ。そしてリーグはそれを全力で支援することがなによりも大切なのだと思う。もっと具体的に言うと情報を公開するべきなのだと思う。もちろん言えない情報もあるのだろうが選手のケガの情報や練習公開は積極的におこなってもいいのではないかと思う。憶測を呼ぶような体制はやめて選手やクラブとファンの距離を近づけることで少しずつ裾野が広がっていくのではないだろうか。そのやり方と対極をなす方法もまた有効な手段としてある。それはプロモーションとしてスター選手やメガクラブを「作る」ということだ。ビッグ選手をより大きく見せて、こんな才能にあふれた素晴らしい選手であると誇張してブランディングしていけば初めてサッカーを見る人であってもどこに注目すればいいのかが簡単にわかる。リーグが上位クラブに強化費を配れば大きな戦力となる選手を獲得でき選手層に厚みが増しリーグを何連覇もするクラブが表れ世界と戦えるようなJクラブが誕生するかもしれない。しかし僕はこのやり方に反対だ。それは表面的なアプローチに過ぎず薄っぺらい客を増やすだけになってしまう。もちろん今は"にわかファン”の存在が受け入れられていてその人たちによって経済的な効果が出ているのも事実だがそういった人たちのほとんどはすぐにJリーグから離れてしまうのだと思う。よりリーグが重視しなくてはいけないのは継続的な顧客の獲得だろう。そこで大きな役割を果たすのがメディアだと思う。メディアの動き次第で経済は大きく変わる。しかし昨今のメディアはどうだろうか。ただ速報を垂れ流し、ネットの反応を流行に乗っかる形で紹介しているだけになっているのではないだろうか。分析的にJリーグを取り上げ魅力ある記事を書いているといえるだろうか。その取材力を存分に活かした記事を発信しているだろうか。もちろん商業であるからビューが取れればいいわけなので切り取って興味を引くようなタイトルをつけてアップすればそれなりに権力のあるメディアなら簡単に閲覧者を獲得できる。しかしそんなやり方ではJリーグに興味をもってくれる人が出てくるわけがない。もっとサッカーメディアは自国のリーグに責任をもって取り上げてほしい。一方でJリーグがフリーのジャーナリストよりも既存のスポーツ社を優遇するような構造になっているという声も上がっている。そこはリーグ側に非がある。既存の既得権益を重視するのは日本社会のよくない面でもあるがそういった部分を変えていかないと世界のリーグとは太刀打ちできない。

Jリーグのコンテンツ力


DAZNは2017年からJリーグを独占的に配信している。そのおかげでJリーグの資金は潤いクラブに還元されいるのは周知の事実である。しかし来年からJ3の放映権はDAZNではなくリーグが持つことが発表された。これに対して不満の声が上がっている。しかし自分は好意的に捉えている。まずDAZNが現在配信しているサッカーコンテンツはJリーグのほかにWEリーグとラリーガ、ベルギープロ、リーグアン、EFLチャンピョンシップなどがある。以前はCL EL PL ブンデスなどをやっていたことを考えると物足りなさがある。今回の放映権手放しはJリーグが新たな配信プラットフォームを整えるいい機会なのだと思う。Jリーグの番組といえばやベスタやフットボールタイムなどがあるがどれもバラエティー色が強く新規向けの内容になっているように感じる。それで新規を取り込めればいいが有料コンテンツであるためそもそも契約している時点でそれなりにサッカーに詳しい層であるはずだ。クイズ形式で名場面を振り返ったり選手をキャラ付けしたりと大衆向けとなっており正直対象とする層をはき違えている感は否めない。だからJリーグが主体となってもっとディープで分析的な番組を製作してほしいと個人的に感じている。例えばYouTubeの週刊J2という番組があるのだがそこに対して放映権を売ることで今はトークのみの番組だがそこに映像が加わることによってよりサッカーを振り返る番組になるのだと思う。また新規向けのコンテンツとして今のゴール集やプレイ集などのありきたりで表面的なものに終始するのでは広がっていかない。リーグとしてはクラブを地域のスターにしてそこからJリーグの入り口にしようと考えている。それは確かに素晴らしい案で実効性もあり有効な考えだと思う。さらにもっと社会を巻き込んだリーグにしていくためには人を動かすコンテンツを創り出すというのが僕の個人的な願いだ。臨場感ある映像、心躍る音楽とプレイの融合、色合いを鮮やかにし非日常を生み出す圧倒的な空間創造をJリーグができれば唯一無二のスポーツコンテンツになっていくのだと思う。

Jリーグのクオリティ


サッカーはするし、知っているけどJリーグを見ないという人が一定数いるのは事実としてある。Jリーグはレベルが低いから海外サッカーは見るけど日本は見ない。これが一番言われて悔しく感じる。せっかくサッカーに理解がありJリーグを見てもらうハードルは一番低いように感じるのにそこで対立が起きてしまっている。そういった層にも関心を持ってもらうことも裾野を広げコミュニティを拡大するという観点において非常に重要だと思う。ではどうすれば彼らのこびりついた思考をチェンジできるのだろうか。正直欧州のトップレベルのスピード感やテクニックを見た後にJリーグを見てげんなりするのは仕方がない。そこはJFAが主体となっているが個人的に世界との差は広まっているように感じる。そこで彼らが少しでもJリーグに関心を持ってもらう方法として選手やチームの技術面ではなく見る環境を欧州に合わせるということを提案する。例えば配信の映像の質が特にJ2以下になるとグッと落ちる。ボールにかなり近づいたカメラワーク、わかりやすさを重視して俯瞰的な目線を排除したアングルなどもリーグの質という観点から気になってしまう。さきほどのプロモーションの話とも繋がってくるのだが映像というのはリーグの重要な価値を持つ根幹をなすものだと思う。そこを従来のやり方に即して進歩なく淡々と映すのは非常にもったいない。 もっとプレミア感を演出し特別な空間を創り出してブランディングしていけばもっとリーグの価値も質も上がっていき欧州にも劣らないリーグ価値を提供でき欧州ファンも取り込んでいけるのではないだろうか。

育成

先ほどのクオリティというのはもちろん選手も当てはまる。J3を見ていると本当にプロなのかというミスが多くみられる。彼らは厳しい振るいにかけられたうえで出場しているはずなのになぜかプレーが中途半端に見える。もしこれを現役の選手が見ているようなことがあれば非常にリスペクトを欠いた発言のように思われるかもしれないがご容赦いただきたい。彼らの中には高校サッカーで一世を風靡した人やかつて日本代表として日の丸を背負った人もいる。それだけのエリートであるはずなのにJ3になるとプレースピードが落ちパスミスが増え差を感じるのはなぜなのか本当にわからないのだ。J3よりもJ2のほうが、J2よりもJ1のほうが、J1よりも欧州リーグのほうがレベルは高いがサッカーの天才にも関わらず日本から世界で戦える選手は選ばれた人間であってもほんのわずかだ。それはなぜなのか。それはJFAの育成が間違っていたと言わざるをえないだろう。少しマイナスな話をしているように聞こえるかもしれないが日本におけるサッカー環境はほかのスポーツに比べていいはずだ。基本どこの学校にもサッカー部はあるし、サッカーという競技を知らない人はいないし競技人口もトップで施設や制度も整っている。そんな中で選ばれた選手であっても世界どころかJリーグでは通用しないのは育成法をもう一度吟味する必要がある。例えば指導者ライセンスの問題、例えばリーグ構成の問題、例えば日本式の指導法の問題、ここでは長くなってしまうので割愛するが日本の育成が日本のサッカーのレベルを引き上げることは間違いない。選手が自分の力を存分に発揮できるものになっていけばJリーグの質は上がり見ていてエキサイトするものとなっていくのではないだろうか。

環境

環境というのは主にJリーグを取り囲むコミュニティについてである。最近つくづく目に入るのは他者や他クラブに対する僻み合いだ。みんなはなににそんなにイライラしているのだろうか。こんなことを言えるのは僕がフラットにJリーグを見ているからかもしれないが自分が愛するクラブの結果にすべてをささげていてそれを踏みにじられたらイライラするというのは確かにわかる。しかしどこか最近の様子はすごく悲しい気分になる。相手クラブに対する思いやりのないコールや煽りあいの文化は個人的に好きではない。リーグでの慣れあいや仲良しこよしが割に合わないという人がいるのも理解しているが相手クラブを憎しみ足を引っ張り晒上げるのが最近特に多い気がする。もちろんトラブルに対してクラブに非があるということがあるのも事実だ。例えば名古屋グランパスの座席問題やFC東京の試合前パフォーマンスの話などは確かに怒る気持ちも理解できないわけではない。しかしあまりにも短気でなぜそこを少し冷静に解決しようとするのではなく熱くなって他者を落とし敵視し排他的になるのだろうか。エネルギーがそういった方向に使われるのが残念でしかたない。マナーを違反したら晒上げそれに同調する人たちが拡散する。そして負の側面だけが取り上げられリーグの価値が低下する。そんなコミュニティに参加したいと新規が思うわけがないし、今までJリーグを見ていた人だってそんなギクシャクした場所にいたいはずがない。なんでもかんでもむきになって噛みつく人があまりに多い。サポーターが自分の愛するクラブを肯定する場面よりも相手クラブを蔑むことのほうが多いのが嫌だ。Jリーグの心地よさが特に最近壊れかけているように感じるのだ。だから僕はそういったことの少ないJ3などに惹かれてしまう部分があるのかもしれない。Jリーグのよさ海外のような危険を伴う応援がないことではないのだろうか。相手サポーターを馬鹿にするよりも、ようこそと向かい入れるほうが互いに気持ち良いではないか。なにか最近の風潮はJリーグにとってマイナスでしかないように感じるのだ。

最後に

審判の問題についても最後に考えたい。僕は審判団に感謝をしている。それは例え納得いかないものであっても彼らがいないと現状のJリーグは成立しない。情報化が進んだことでネット上でジャッジが拡散され審判に対するリスペクトのない誹謗中傷が平気でおこなわれていることに僕は憤りをおぼえる。僕が一番恐れているのはそうした誹謗中傷に耐えかねた優秀な審判が辞めていきどんどん審判の数が減ってしていきリーグ運営が立ち行かなくなることだ。今はジャッジリプレイなどの影響で少しずつルールや審判に対する理解も増えてきたがやはりまだ短絡的な批判が目に付く。引退しろとかライセンスはく奪しろといったなんの解決にもならない感情的な意見から、自分が納得いかなかった判定を持ち出してJリーグのレベルの低さを誇張し非難するのがよく目に入ってくる。今の審判団に求められるレベルは高い。しかし100点満点のジャッジができるわけではない。そこをリーグが審判を救済するようなシステムが必要だ。たまにハイライトで疑惑のジャッジが切られていると陰謀論を唱える人間がいるがそういった頭の悪い人に対しても理解をしてもらえるような仕組みが必要なのだ。リーグの規模が大きくなっていくというのはそういうこと。例えば今はVARが世界基準で運営されているがVARは果たして最善の策なのだろうか。ジャッジが審判の裁量に任せられており時間制である球技であるサッカーを考えていくためにVARの運用方法は議論の余地があると思う。

僕はJリーグを誇らしく思う。Jリーグの30年にはそれぞれの記憶が、人生が、運命が、伝説が、歴史が、埋め込まれていてそれを継承し揺らぎやすい産業だからこそ守りながらチャレンジしていく。ここまでポテンシャルのあるリーグは世界に1つしかないのだ。