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「世界の電池工場」の形成を目指す!バッテリーで世界を牛耳る!(中国自動車市場#3)

中国は、中国共産党の壮大な夢の実現のため、政府主導で強烈なEV推進を図ってきました。今回は、EVシフトに欠かせない電池産業について、ざっくり見てみたいと思います。


1.外資系排除政策(ホワイトリスト)

電池産業育成のため、中国政府はまずサプライチェーンの整備に力を入れてきました。

このホワイトリストが、代表的な政策になります。一言で言うと、地場電池メーカー育成のため、外資系を排除した保護政策になります。

過去の自動車部品の技術開発の遅れを反省していた中国政府は、EVのコア部品である電池の重要性に着目していました。

そこで、中国政府は、研究開発補助金の投入や産業保護政策の実施を通じて、地場電池メーカーの育成を図り、低コストのLFP(リン酸鉄)を中心とする電池生産に乗り出しました。

電池の種類としては、技術の障壁、製品の安全性および希少金属の調達などが考慮され、LFP(リン酸鉄系)を中心に生産が進められました。

一方で、既に電池産業に乗り出していた韓国の電池メーカであるLG化学やサムスンSDI、SKイノベーションは、2013年に電池需要を見据えて、中国で生産工場を立ち上げました。

この時点で、韓国メーカーの三元系電池(NCM:リン酸鉄より電池密度が高い)は、品質でも当然中国電池メーカーよりは格上、そして、電池価格も地場電池メーカーの半額レベルであり、圧倒的な競争力を誇っていました。

中国政府にとって、これらの外資電池メーカーは、自国電池産業の育成を取り組む上で脅威でしか無い存在。

そこで何をしたかと言うと、2015年に中国政府認定メーカーの電池搭載をEV補助金の支給条件と規定し、2016年にホワイトリストと呼ばれる地場電池メーカー57社を公表したのです(57社の中に外資企業は1社も含まれていません)

この発表のすごいところは、リスト上にあるメーカーの電池を使っているEVのみが、購入時の補助金交付が受けられる事としたのです。

EVはまだ一般のガソリン車に比べて高価であるため、もし購入時の補助金が出ないのであれば、ほとんど売れる見込みはなくなります。そのため、リストから除外されてしまったLE化学、サムスンSDI、パナソニックもそうですが、事実上中国市場から排除される形となってしまいました。

サムスンSDIとLG化学の中国工場の稼働率は一時10%程度にまで落ち込み、SKイノベーションは北京工場を閉鎖にまで追い込まれました。

こうしてできて隙間は、中国地場電池メーカーの寧徳時代(CATL)やBYD等が、世界的な電池メーカーへと躍進を果たしたきっかけとなったんですね。

一応、中国政府としては、

  1. THAAD:高高度防衛ミサイル配置に対する韓国政府への反発

  2. 韓国メーカーが中国にR&D機能を持っていない

  3. 三元系電池(NCM)の安全性に問題がある

として、韓国系メーカーをこのホワイトリストから除外しました。本当に中国政府のやることは大胆ですよね…。


2.新規参入規制、補助金支給条件引き上げによる産業再編


手厚い保護政策によって産業育成を図る一方で、その弊害も生じました。地場電池メーカーによる電池への先行投資競争の激化、及び過剰生産を生み出したことです。

電池の基礎化学物質である炭酸リチウムや主要材料のコバルト/ニッケルについて、先を争って確保したため、価格高騰を招きました。これを受け、2018年に十分な研究開発能力と資金力を持ち合わせた電池メーカーに限って、市場参入を認める方針を打ち出しました。

具体的には、電池の出力に直結する電池セルの密度を現行比で3割以上引き上げることを求めました。つまりは、容量、エネルギー密度がより高い電池へのシフトを促すことで、これに対応できない電池メーカーの淘汰を図ったわけです。

上記の背景から、地場電池メーカーの多くは、LFP(リン酸鉄系)から、より性能が高いNCM(三元系電池)に生産をシフトさせました。

しかしながら、先進国は、NCM(三元系電池)よりもさらに容量・エネルギー密度の高いハイニッケル三元系電池やニッケル系正極材電池(NCA)が主流となっており、LG化学やパナソニックが生産する電池と地場電池メーカーとの間では、技術格差がある状況でした。

こうした状況の中、中国政府は、電池メーカーに対して、量重視から質重視への政策転換を求めました。

2019年のNEVの販売支援を目的とした補助金の額は、前年比で大きく減額され、具体的には、航続距離250キロメートル以上、電池密度160ワット時毎キログラム以上、電力消費効率2割向上等、補助金支給の条件も厳格化されました。

LFP(リン酸鉄)よりも航続距離の長いNCM(三元系)を搭載すれば、より多くの補助金を貰えるため、完成車メーカーの多くは、CATLやBYD等の大手地場電池メーカーに調達を集中させる方向に傾いたんですね。

こうした背景があり、地場電池メーカー数は、2016年:150社だったものが、2021年:55社まで再編されることになったのです。

現在の課題としては、大手電池メーカー稼働率は80%以上であるものの、中国電池業界全体の稼働率は30%に留まっていることです。CATLとBYDの大手2社で中国市場のシェア約7割を占め、寡占化がどんどん進んでいます。(ちなみに2021年のグローバルシェアは、CATLが31%で1位、BYDが8%で4位、またトップ10の内、5社が中国系メーカーが占めるまでになっています)

弱小電池メーカーが生き残る術は、もはや大手電池メーカーによる吸収のみしか残されていない状況となり、ますます大手集中に加速する流れとなっています。


3.保護政策の撤廃

ホワイトリスト、新規参入規制等によって成長を果たした地場電池メーカーにとって、業界の流れが変わる発表が2019年に打ち出されました。

それは、これまで外資系電池メーカーの参入障壁であったホワイトリストが撤廃となったことです。

地場電池メーカーの産業育成が成されたことが背景ではあるのですが、地場電池メーカーに対してさらなる競争力向上を促すことも意味しています。

いゆわる、異質なものが外から入ってくると全体の活力が高まることを例えた「ナマズ効果」という奴です。

中国EV市場にテスラという捕食者をあえて入れることで、EV地場メーカーの競争力を高めたように、電池産業でも同じことをやろうとしたのです。

こうして、2019年以降、韓国系メーカーやパナソニックは、中国市場での復活を目指し、生産体制の整備を急ピッチで進めることになり、グローバルで業界NO.2のLG化学を筆頭に、CATLの背中を追う形となっているのが現状となっています。

「世界の電池工場を目指す」ことを目標としていた中国政府としては、上記の過程を踏んだ結果、目標は達成されている状況にあると、言えると思います。


ではでは、今日も一日頑張っていきましょうー!


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