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清風堂のおすすめ vol.3(2023/9/23)

 清風堂書店の谷垣です。やっと涼しくなり、秋らしくなってきましたね。

 今回は「これから出る本」のご紹介のみ。すこし地味な回となります。最近は忙しく読書もままならない状態なので、読んだ本をご紹介したいところですがそれもできず…。かといって、新しく開催しているフェアもありません。ただ、毎週なにかと気になる新刊情報が入ってくるので、書く内容に困ることはないのですが。
 本が出来上がり、棚に並ぶまでを待つのも楽しいものです。その感覚をすこしでもおすそわけできれば、とおもいます。

これから出る本

『大阪の生活史』岸政彦・編/筑摩書房

いよいよです。11月末頃の発売。あれほど重厚だった『東京の生活史』から、さらに数十ページ増え1280頁・4950円。文字数にして150万字超。飛田で働く京大生、山形出身の虎ファンなど総勢150名が大阪を語ります。これ一冊あれば、冬休みの読書には困りませんね。

『野生のしっそう』猪瀬浩平/ミシマ社

 知的障害があり、自閉症者と言われる兄とわたし(著者)をめぐる物語。大学生の頃、著者は文化人類学に興味を抱き、「障害の人類学」を20年以上研究してきました。しかし、これはやりたかったことではないと気づいたそうです。障害のある人がどのような意味を与えられ、どのように生きるのかを研究するのが「障害の人類学」だとすると、それは「違い」という事実があることを無意識に内面化してしまう。その一方で、みずからの経験のなかで身体や精神に気を配りつつ「違い」や「重なり」を考えることで、「違いがあるけれども、お互いふれあえる」世界観があるのではないか。そして、「違い」の内面化から抜け出す契機となるのが「しっそう」である。というのが、「まえがき」で触れられていたことでした。これだけでも、おもしろそうなのがわかる。

障害、コロナ、他者…さまざまな「わからなさ」とどうつきあっていくのか…?その答えではなく、態度が一冊を通して届いたらいいなと思います。

『野生のしっそう』新刊案内より

11月中旬に発売予定。2023年最高の人文書とのことです。要注目。

『ヒロポンと特攻』相可文代/論創社

私の街から戦争が見えた!
戦時中、大阪・茨木市の女学生が学校で包んでいたものは、
なんと覚醒剤入りチョコレートだった。

『ヒロポンと特攻』新刊案内より

2021年に自費出版されていたようで、今回は商業出版に。
当時の女学生たちは、どんな思いでチョコレートを包んでいたのだろう。

『料理研究家のくせに「味の素」を使うのですか?』
リュウジ/河出書房新社

 タイトルで笑いました。過去にX(旧Twitter)でこんな炎上案件があったようです。ぜんぜん知らなかった…。

 レシピに味の素を使っただけで「悪魔崇拝者」の烙印を押され、陰謀論者たちの批判の的となっていたようです。また、「味の素には人体に有害な成分が使われている」「アメリカでは販売を禁止されている」などの風評もあり、それを信じる人たちから「ひとごろし」と言われる始末(これも一種の陰謀論です)。何を言っているのかわからない方も多いでしょうが、とにかくそういうことがありました。そして、それに対するアンサーソングならぬ、アンサーブックを出版するに至ったというわけですね。降りかかった火の粉もネタに変える。すごい。10月下旬頃に発売予定。

おわりに

 今週はこれでおしまいです。気になる本は見つかったでしょうか。ついでと言ってはなんですが、最近読んでおもしろかった連載をご紹介します。

 坂口恭平さんによる原作を、道草晴子さんが漫画にしています。私は帰りの電車のなかでこれを読み、目から鱗が落ちました。人生や仕事に行き詰ったとき、ビジネス書を読んで「がんばるぞー!」と根拠のないやる気を出してはすぐに忘れ…ということを繰り返してきた方(それは私です)に、ぜひ読んでもらいたいです。私にとっては、「清風堂のおすすめ」を毎週配信しようと決めたキッカケでもあります。

 何事においても、「続ける」ってすごく難しいものだと思ってしまいますが、難しくさせている原因をよくよく観察してみると、じつは些細なことだったりするものです。よくある原因のひとつは「こんなことしても何の意味もない」というものです。これに論理的に反論することはおそらく不可能だと思います。だからこそ人を挫折させるに十分な力を持っている。しかし裏を返せば、そんなしょうもない理由で諦めるなんてもったいない。人間は理屈だけで生きているわけではありません。むしろ、そうした反証不可能な言葉には意味がないのではないか、というのが私の最近の気づきです。

というわけで、来週も配信予定です。お楽しみに。


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