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ヒヨコ通信vol.1~孵化から1週間~

2020年2月28日、文化学園大学杉並中学・高等学校の理科室で、4羽のヒヨコが産声をあげました。
生物探究部の生徒が研究に使うために孵化させた卵でしたが、運悪く前日に安倍首相から全国の小・中・高校に臨時休校要請が通達されたところ。親(生徒)たちとはたった1日対面しただけで離れ離れになってしまいました。
生徒が戻ってくるまで死なせるわけにはいかない!ということで親代わりを引き受けた教員の奮闘記録を、皆様にもお届けしたいと思います。

孵化

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時は遡ること三か月前、2月6日からこの物語は始まります。
生徒が孵化実験を行うため、スーパーで卵を買ってきました。実は、商品名に「平飼い卵」とあるものは、平飼いをしている(広大な土地にニワトリのオスとメスを放し飼いにしている)ので有精卵の可能性が高いのです。
2つの異なるメーカーの「平飼い卵」を4つずつ、計8個を孵卵器に入れ様子を観察しました(8個中8個が中で育っていたと思います。しかし、最終的に殻を破って出てくることができたのは4羽でした)。
そして、約3週間後の2月28日、とうとう卵にヒビが入り始めました。
午前10時、まず2つの卵にヒビが入り始めました。そして、その2つが完全に孵化したのは午後3時。すぐさま段ボールに移し温めます。残りの2つは午後8時半ごろ開き始めたところを見届けてタイムアップ。そのまま孵卵器に残し帰宅せざるを得ませんでした。
翌日、孵卵器の中でピヨピヨ鳴いていたヒヨコ2羽を回収しました。

刷り込み

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ここで、興味深い差が生じます。「刷り込み」の対象の違いです。
刷り込みとは、鳥類のヒナが最初に見た動くものを親だと思い込む本能行動です。「刷り込み」があるおかげで、危険が多い自然界でもついていくべき対象を見誤らず、餌をもらい保護をしてもらえます。
それが、最初の2羽は「ヒト」で、あとから生まれた2羽は「ヒヨコ(お互い)」なのです。残念ながら孵化に立ち会った教員もあまり見分けがついておらず、「多分こうだろう」という推測しか言えませんが、後々そのことにも触れていきたいと思います。

名付け

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まず生まれたてのヒヨコにしてやらなければいけないことは、そう、名付けです。
羽が乾いてくると色がはっきりしてきて、見分けがつくようになってきました。全身茶色いのをモモ、頭だけ茶色いのをササミ、黒い斑があり、少しお尻がこんもりとしているのがボンジリ、全身真っ白なのがムネという、なんとも“ニワトリらしい”名前を付けました。少々残酷に思えるかもしれませんが、「オスだった場合、鳴き声が近所迷惑になってしまって飼えないから、責任を持って食べる」というのが孵化させるにあたり生徒と交わした約束です。まだどの子がオスでどの子がメスなのか見分けがつかないため、愛着がわきすぎないようにこのような名を全員に付けました。

暖めろ!!

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最初の一週間を生き抜けるかどうかは温度次第。ヒヨコの生育に失敗する多くの事例は温度管理に原因があります。この時期のヒヨコは特に自分の体温調節がへたくそです。段ボールに電気行火を入れ、その段ボールの周りを電気毛布で覆い、その周りを断熱材代わりの段ボール、さらにその周りを銀色の保温シートで覆い、温度を保ちました。ヒヨコたちは寒いときはぴったりと行火に寄り添い、暖を取っていました。ちなみに、ヒヨコ同士で温めあえるので、1羽だけでなく複数で生育する方が生存率が高いようです。

モフモフしたいという欲

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さて、ふわふわのヒヨコを見ると触りたくなるのが人情です。しかし、ヒトの表面温度は高くても32℃程度。鳥の平熱は約40℃程度ですから、ヒヨコにとっては冷たいのです。触られすぎて低体温で命を落とすヒヨコも多いと風のうわさで聞いたこともあります。
でも、触りたい!
もふもふしたい!
この欲にはあらがえず、折衷案としてお湯で手を温めてから触っていました。
また、この時期にあまり触られないとヒトに懐かないニワトリになるという記事を読んだことも後押しとなりました。当時、たくさんの先生方に可愛がっていただいたおかげで、現在はヒトによく懐いたトリに成長しております。

ちょっとしたことで詰まる腸

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生まれたばかりのヒヨコたちに何を食べさせれば良いのか。様々な文献を調べましたが、生まれた直後から親と同じものを食べられる、とのこと。野菜やミミズはその最たる例だそうです。しかし1つ注意をしなければいけないのが“粉もの”。粉っぽいものは未成熟な腸を詰まらせてしまうようです。同様の理由で火を通したデンプン(炊いた米やパン)もNG。ということで、水に浸した生米をすりつぶしたものに野菜やキノコをみじん切りにしたものを混ぜて与えていました。世の中にはヒヨコ用の飼料なんて便利なものもあるみたいですが、残念ながら手元にあるのは成鳥用の飼料のみ。米ぬかなどが配合されていることから、手作りの餌で育てることにしました。

今回はここまでで終了です。
次回、第二週の様子をお届けします!

番外編~ピヨピヨと音のする謎の箱を持ち歩く女~

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2月29日、土曜日。生徒たちにとってはヒヨコの姿の彼らとの最初で最後の対面となってしまったこの日、我々の中ではまた別の問題が浮上していました。そう、明日は日曜日なのです。人がいなくなってしまう学校に生まれたばかりのヒヨコたちを丸1日放置するわけにもいかず…。苦肉の策で自宅に連れて帰ることにしました。
ヒヨコたちを段ボール箱に入れ、熱湯を入れたペットボトルで簡易カイロを作り、断熱シートで段ボールを包みます。そして揺らさないように慎重に持ち運び…そのまま公共の交通機関に乗り込み帰宅しました。
もし、4年に1度のうるう日にピヨピヨと音がする謎の銀色の箱を抱えた女を街中で目撃された方がいらっしゃいましたら、それは私だと思います。お騒がせいたしました。

学校のホームーページに、ヒヨコたちを題材にしたオンライン授業の様子が掲載されています。
ぜひ、そちらも合わせてごらんください。

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