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ヒヨコ通信vol.5~ミミズ争奪戦勃発~

ある晴れた日のこと。ヒヨコたちのために設置された運動場で事件は起こりました。
さっきまでまったりと草をついばんでいたヒヨコたちが、すごい勢いで走り始めたのです。よく見ると何かをめぐって争っているようでした。その何かとは…
ミミズです!
7cmはあるでしょうか。ヒヨコの体長の3分の1はあるかという大きなミミズです。
最初にミミズをとらえたのはササミ。誰にも奪われないように逃げ回ります。それを追うモモとムネ。言わずと知れた“飛ぶのが苦手チーム”が、未だかつて見たことのない俊敏さでササミを追いかけます。勝手に運動神経が悪いと思い込んでいました。認識を改めざるを得ません。訂正して深くお詫び申し上げます。
区切られた区画に作られた運動場ですから、どこに逃げてもすぐに追いつかれてしまいます。独り占めしたいササミはなかなかゆっくりミミズを食べることができません。ミミズが長すぎてうまく飲み込むことができないのです。

モモが一瞬の隙をついてミミズの先端をとらえました!すぐさま応戦するササミ。綱、いえミミズ引きの開戦です。軍配はすぐにササミに上がりました。あの重量級のモモにササミは勝ったのです!モモは咥えどころが悪くてすべってしまったのかもしれません。おそらく、体格差も相まって単純な力比べならモモが強いでしょう。ササミの瞬発力の勝利でした。

直後、ムネが勝負を挑みました。ミミズ引き2回戦目の勃発です。勝ったのはムネ。おとなしいムネの勝利にオーディエンス(ヒヨコ愛好会の教員たち)のボルテージも一気に上がります!ササミはどうやら先ほどのモモ戦で消耗していたようです。

ムネ

ミミズを勝ち取ったムネはノタノタと誰もいないところに移動しミミズを飲み込もうとしますが、やはり長すぎてなかなか飲み込めません。地面に置いてあるミミズを何度もくちばしでつついています。角度を調節しているのでしょうか?もうミミズはピクリとも動きません。少しミミズが不憫に思えてきました。「一思いに食ってくれ」という悲痛な叫びがきこえてきそうです。

ムネがもたついている間にササミとモモが追い付いてきました。ムネはミミズをくわえ、再び走り出します。走り回っているうちに向きの調節ができたのか、ムネがミミズを3分の1程飲み込むことができました!このままムネの胃袋に収まるのか!?と誰もが思った次の瞬間、ササミがミミズを咥えて逃亡していました。

え?飲み込みかけていたミミズを食道から引きずり出して逃げたの?

ササミが咥えているミミズは長さが先ほどまでと変わっていないようなので、そういうことなのでしょう。

チャンピオンササミ

そのままササミは誰もいない場所に逃げ込みます。追手はムネのみ。モモは飽きてしまったのか、忘れてしまったのか、遠くの方でまったりと草をついばんでいます。ムネも少し手を出そうとして、それをササミに阻まれると静かに踵を返しました。どうやらこのミミズ争奪戦の勝者はササミに決まったようです。
誰にも邪魔をされなくなったチャンピオンササミは自分の獲物をゆっくりと丸のみにしていきました。ヒヨコの体長の3分の1程もあるミミズがするすると吸い込まれていく様は、まるで手品でも見ているようでした。

さて、これにてミミズ争奪戦は一件落着です。
ずっと室内で育ってきた彼らはミミズなど見たこともないはずなのに、自力で掘り当て、さらにそれがおいしいものだとわかっていて取り合いをする。
ヒトの手で育てられた彼らにミミズが食べられると教えてくれた親鳥はいません。ということは、本能のレベルで「ミミズは食べられる」とわかっているのです。本能というものはとても興味深いと思わされた一件でした。

番外編~ボンジリは何を?~

さて、ここまで読んでいただき、違和感を覚えた方もいらっしゃるかもしれません。
そう、我々が育てているヒヨコは4羽いるはずなのに、今回の争奪戦、3羽分しか名前が挙がっていないのです。
残されたボンは何をしていたかというと…鳴いていました。
ピーヨピーヨと泣いていました。
敷地の問題でこの運動場はL字型をしているのですが、争奪戦はその一辺のみで行われていました。ボンジリは曲がり角の向こうで「みんなー?どこいったのー?」とでも言うように鳴いていました。
兄弟たちがミミズをめぐって争っていたことなど、気づいていなかったのではないでしょうか。もしかしたらミミズがいたことすら気づいていなかったのかもしれません。いつものように草をついばんでいたら、いつの間にかみんながいなくなっていて、不安になって鳴いていたのです。

そんなボンジリが愛おしくてたまらないです。

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