ティラノの肛門、縦に描くか?横に描くか?
下のイラストは、「恐竜のウンチ化石の中に、別の動物の筋組織が残されていた」ことを示しています。よく見ると、ティラノサウルスのお尻に穴が……そう、肛門です。
正確には「総排出腔」(そうはいしゅつこう;おしっこもウンチも卵も出てくる)と呼ばれ、爬虫類や鳥類などに見られる器官です。その形状は種によって様々で、たとえばワニでは縦方向に、鳥では横方向に開口しています。しかし、恐竜のお尻なんて、もちろん誰も見たことがありません。
それでは、いったいどのように描かれているのでしょうか?
そこで、化石の出番です。
2021年、プシッタコサウルスという恐竜の化石に関するビッグニュースが飛び交いました。
その化石には奇跡的に総排泄腔が残されており、解剖学的特徴を検討したところ、縦方向に開口していたことが明らかになったのです。一方、その形状については、ワニのようにV字のスリット状であったのか、あるいは鳥のように輪っか状であったのか、詳細に絞り込むことはできませんでした(論文中にも“cannot determine”と書かれています)。
果たして、未だ見ぬティラノサウルスの「肛門」を、縦に描くべきか、横に描くべきか。書籍『化石のきほん』の著者である泉賢太郎さんと、イラスト担当の菊谷詩子さんと話し合った結果、ティラノサウルスは獣脚類(鳥類を含むグループ※プシッタコサウルスは鳥盤類という別グループ)であるため、その総排出腔を現生の鳥に近い形、つまり横長の楕円形で描くことにしました。
このように、本書ではイラストの線一本に至るまで、可能な限り細部を意識して制作しています。
理解をさらに深めてくれる、サイエンスイラストレーションの世界にもぜひ注目してください。