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【短編小説】逆夢

 いつだったか、私は夢を見た。死んだ親友が目の前に現れる夢だ。
 まあ、もうまともに覚えてはいないのだけど。

 彼女が亡くなったのは、高校二年の秋だった。彼女は元々体が弱く、私はいつも彼女の隣にいて、支えていた。だからこそ彼女がいなくなった後は随分塞ぎ込んでいて、しばらく不登校になっていた程だ。
 彼女が再び現れたのは、その年の冬のこと。その夢の中で、未だに朝日が昇っても起きる余裕が無かった私は、布団の中に閉じ籠っていた。あの子がいない世界なんて、とか考えていると、インターホンが鳴ったのだ。こんな時間になんだろうとは思いつつ、対応は母に任せた。
 そうして二度寝でもしようかと思った矢先に、今度は私の部屋のドアがノックされて、そして聞けるはずのない声が聞こえたのだ。

「とあちゃーん、起きてるー?」

 私はすぐにその扉を開けた。そこには平然と、親友の宮子の姿があった。
 私は思わず抱きついた。最初、私はこれを夢だと思わなかった。本当に宮子は生き返ったんだと思っていた。それ程嬉しくもあって、彼女の温もりは暖かかった、はずだ。

 その後、私は学校に行くつもりはなかったのだけど、宮子が行こうと急かすので、連れられるままに教室に着いてしまった。クラスメイトが優しく出迎えてくれたのが救いだったかもしれない。
 私以外の皆は「生き返った」と認識していなかった様だけど、正直どうでもいい。だって、隣に宮子が居るだけで十分だったから。
 それからは特別面白いことが起こったわけじゃなかった。ただ普通の、以前のような学校生活を送っていただけだ。まあ他愛もないお喋りをしたり、何気ない日常で笑い合ったり、そんなとこだ。細かいことを覚えているわけじゃない。

 そんな楽しい一日、いや夢の終わりを告げるように、帰り道で彼女は足を止めて話し出す。自然と、お互いに向かい合った。

「とあちゃん、今日はありがとう。久しぶりにとあちゃんや皆と会えて、楽しかったよ」

 それはまるで、もう会えないだろうというような雰囲気で。
 夕日が差し込む道端で、私はそれを食い止めるように叫んだ。

「待って、私はまだっ――」
「とあちゃん、これは夢なんだよ。もう現実には、私はいない」

 気付けば、辺りが崩れていくのを感じた。さっきまで私達を包んでいたオレンジ色も、見慣れた街並みも、皆崩れていく。残るのは、私達二人だけ。
 でもね、と彼女は続ける。

「とあちゃんを一人残しちゃうのも、心配だったんだ。だから、夢の中に入ってきちゃった」

 そう言って、気付けば涙を流している私に、宮子はそっとハグをした。優しく包み込まれながら、夢は徐々に終わっていく。

「大丈夫、私はそばにいるよ。そう思って」

 ――次の瞬間、私は目を覚ました。先程の夢の内容を思い出そうとして、徐々に忘れてしまっていることに気が付いた。覚えていることといえば、夢の中であの子に会ったということだけだ。
 諦めて私は布団から出た。今日は学校だ。昨日までは行く気力が無かったのに、今日ばかりは謎の使命感に駆られて、ドアノブに手を掛けた。
 その時、あの子の声が聞こえたような気がした。けれど私は、あれが逆夢だとわかっているから、気に留めずにそのまま部屋を後にしたのだった。

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