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「Raison d'être~存在理由~」第一話

あらすじ
及川賢人はごく普通の高校生……ではなく、保護者生島瑶子の仕事を手伝いつつ、平凡ではない日常を過ごしていた。保護者瑶子は特別捜査官という任務についており、賢人はその非凡な才能を活かして、その手伝いをしている。賢人の非凡な才能、それは所謂人間には普通備わっていない不思議な力、超能力というものだった。今までいくつかの事件を賢人の力を使って解決してきた瑶子は、新たに一つの事件を持ってくる。1人の老人が殺されたというのだ。それも、不思議な力によって。2人はその犯人を捜すべく、捜査を開始したのだった……。

及川賢人は17歳の高校生。生島瑶子は28歳の警察・特別捜査官。瑶子は賢人の保護者という形で2人は同居している。賢人には過去に不思議な力ばかり集められた施設で酷い人体実験をされていたところを、瑶子に助けられたという過去を持つ。

【どこか建物の中】
桐山  貴様、何する気だ!?儂を殺そうとでもいうのか?やめろ、貴様が今
    まで生きてこられたのは誰のおかげだと思っているんだ!そうだ、
    儂だ。儂が居たからお前は死の淵から戻ってくることが出来たん
    だ。気持ちを鎮めろ。儂の言うことが聞けんと言うのか?!ひっ、や
    め、わ、わかった、わかった、お前の願いを儂が叶えてやろう。ど
    うだ、それなら良いだろう?な、もう止めるんだ……き、貴様、儂
    の言うことが聞けんと言うのか?やめろ、やめてくれ!やめ……
    ぎゃぁぁぁぁ!!

【生島家の中】
瑶子  賢人、賢人!早く起きてよ!」
賢人  ん~……もうぅ起きてるよ……。
瑶子  私今日は早く行かなきゃいけないからって、夕べ言ったでしょう?
賢人  ええ……そうだったっけ……
瑶子  ほら!早く朝ご飯食べちゃって!
賢人  勝手に食べていくから、先行っていいってば……
瑶子  何言ってるの!あんたいつもそう言ってご飯食べないじゃない-!?
賢人  ……知らねぇよ……
瑶子  けーんーとーぉぉ!!
賢人  うわ、勝手に開けんなよ!
瑶子  何寝ぼけてるのよ!もう7時半よ?ほらさっさと用意しなさい!
    あんたにも昼から来てもらわなきゃいけないって言ったでしょ!
賢人  へぇへぇ、わかりました、ったく、人使いが荒いんだからなぁ、
    瑶子さんは。
瑶子  ん~?何か言った頭?
賢人  何も言ってねぇよ!
瑶子  あぁら、そぉお?そうそう、学校には午後から休むって連絡
    入れてあるから。
賢人  手回しのいいこって。
    そういや、昨日のことよく覚えてないんだけど、何の話で行くんだ
    よ?
瑶子  ……あんた、夕べコレ呑んだでしょう。
    これ高いのよ!一本いくらすると思ってるの!?
賢人  俺、未成年だぜ、酒なんか飲むわけねぇだろ。
瑶子  ……あら、私ひとっこともお酒なんて言ってないわよ。
    顔もあげずによく分かったわねぇ!?
賢人  げっ……!や、いやぁ、その、青天の霹靂っつぅか、若気の至りっ
    つぅか。
瑶子  何言ってるのよ。あぁ~折角のアルマニャックブランデーが……
    これねぇ、そこらのバーで呑んだらグラス一杯が3000円はする代物
    なのよ!
賢人  ……ならそんな高い物そんなとこに置いとくなよな。
瑶子  やっぱり呑んだんじゃない!
賢人  五月蠅いなぁ、時間大丈夫なのかよ!ほら、さっさと行こうぜ!
瑶子  ……逃げたな。
    まぁいいわ。学校に行くのにお酒の匂いさせてる高校生っていうの
    も強者でしょう。
賢人  うわ、匂う!?
瑶子  ……ぷっ、大丈夫よ、安心しなさい。
賢人  驚かすなよ!
瑶子  ふふ。さ、行きましょう。あ、鍵閉めてきてね。
    私、車を表に回してくるわ。
賢人  ラッキー!乗っけてくれんの!
瑶子  今日は学校の前通るからね、特別よ。
賢人  やったね!

【人混みの中、車が止まる】
瑶子  はい、どうぞ。
賢人  サンキュー!やっぱいいよなぁ、フェラーリってさぁ!
瑶子  ふふん、まぁね。
亜唯子 賢人!瑶子さん!
瑶子  あら、亜唯子ちゃん、おはよう
亜唯子 おはようございます!やっぱりかっこいいですね~!
賢人  お、お前もわかるのか?
亜唯子 わかるわよぉ。この凜々しい姿!涼しげなフェイス!
賢人  そうだよなぁ。
亜唯子 かっこいいわよねぇ、瑶子さんって!
賢人  あっらぁ?
亜唯子 何こけてるの賢人。
瑶子  そうよ、それって失礼よ。
賢人  なんで、そんなにお約束なんだよ……。
亜唯子 賢人が勝手に勘違いしただけじゃない。
瑶子  そういうこと、じゃぁ賢人。
賢人  わぁったよ。
瑶子  亜唯子ちゃん、また遊びに来てね。
亜唯子 はい!
    えっへへ~~!朝から瑶子さんに会えるなんて、ラッキー!
賢人  へぇへぇ。
亜唯子 もう!瑶子さんぐらいカッコイイ人って、そうざらにいないわよ。
    そんな事もわからないんだから、賢人は子供だっていうのよ。
賢人  ……んなことねぇよ……
亜唯子 んー?何か言った?
賢人  いや、何も。
亜唯子 それより賢人、化学の宿題やってきたの?
賢人  ……はい?
亜唯子 やっぱりね……。珍しく早く来たんだから、私のノート写しなさい
    よ。
賢人  おー!恩に着る!
亜唯子 いーっつも口ばっかりじゃない、今度こそ約束守ってよ!
賢人  パティスリーの紅茶シフォン?
亜唯子 それにロシアンティーもつけてね!
賢人  わかったよ、また明日にでもおごってやるよ。
亜唯子 えー?今日じゃないのぉ?
賢人  今日は昼から自主休校。
亜唯子 またぁ?あんた絶対卒業出来ないわよ。
賢人  それが出来るんだな。これが。
亜唯子 またそんな冗談言って。賢人が卒業出来ないかもなんて、考えたら
    胃が痛むわぁ~
賢人  何でお前の胃が痛むんだよ。
亜唯子 だって、賢人って弟みたいなんだもん。
賢人  はいはい、双子の弟君ね。
亜唯子 まぁ?あの子が生きてたらぜーったい賢人にみたいにはならなかっ
    たでしょうけどね!
賢人  はいはい、どうせ俺は出来損ないだよ。
    ほら、早く教室行こうぜ!ノート写さなきゃ!
亜唯子 あ、ちょっと待ってよ!

【警察の一室】
瑶子  はい、どうぞ。
汐見  失礼します。
瑶子  いらっしゃい!どうしたの?昼から賢人連れてそっちに行こうと思
    っていたのに。
汐見  なに、ちょっと野暮用があってね。
瑶子  あら、そうなの?
汐見  なぁ、瑶子。
瑶子  なぁに?
汐見  賢人を引き取って何年になる?
瑶子  ……そうね、ちょうど3年かしら。あの子が14歳、私が25歳の時だ
    ったから……。早いものね、あの子は17歳なんて年頃になるし、
    私は28歳なんていい歳になっちゃったわ。
汐見  28歳がいい年なら32の俺はオヤジか?
瑶子  やだ、弘也がオヤジな訳ないでしょう?どう見たって私と同い年く
    らいにしか見えないくせに。
汐見  嬉しいことを言ってくれるね。
    そうか……あの事件からもう3年か……。
瑶子  えぇそうよ、あの忌まわしい病院からあなたと賢人を助けられて、
    本当に良かったわ。
汐見  知らなかったとはいえ、俺もれっきとした犯罪者なんだがな。
瑶子  弘也!貴方はちゃんと裁判にかかって、不起訴処分になったのよ?
    もう気に留める必要はないのよ?
汐見  わかっているさ、けど、なかなか……さ……
瑶子  ……そう、ね……私達が傍に居る限り、否応なしに思い出してしまう
    かもしれないわね……。
汐見  いや……ただ、俺が手掛けた手術で、一体何人の子供を見殺しにし
    てきたんだろうと思うと、な……。
瑶子  見殺しだなんて!貴方がしていたのは、あの頭のイカれた連中が
    やっていた非合法の人体実験によって、脳に障害が出た子供たちを
    救うことだったじゃない!
汐見  ……あぁ、だが、何故そんなことになったのか、知ろうともしな
    かったよ。
瑶子  妹さんを盾に取られていたんだもの、仕方ないじゃない。
汐見  ……あいつも、結局可哀想なことになっちまった……。
    人々の記憶からは抹消されようとしているけれど、あいつを自殺に
    追い込んだのは俺だ。
瑶子  弘也……お願い、そんなに自分を責めないで。貴方がそこまで苛む
    必要はないのよ。
汐見  ……瑶子には感謝しているよ。あの病院の被験者で唯一生き残った
    賢人を引き取って育ててくれている。
瑶子  なんだか……目が離せなかったの。普通の人にはない能力を持って
    いるというだけで、あんな処に閉じ込められて、様々な実験を受け
    た。それなのにあの子の目は真っ直ぐに私を見たの。その目が忘れ
    られないわ。
汐見  ……そうだな……。
瑶子  どうしたの?突然そんな話。
汐見  墓参りしてきたんだ……今日はあいつの……妹の命日なんだよ。
瑶子  弘也……。
汐見  すまない、古い話を持ち出して。感傷に浸っている場合じゃないよ
    な、新しい事件を持ち込んだのは俺なんだから。
瑶子  ……えぇ、過ぎたことは戻らないわ。
    もう少ししたら賢人もココに来るでしょうし、お昼を食べて貴方の
    病院へ行く、っていうのはどう?
汐見  いいね、そうだ、近くで旨いイタリアンを見つけたんだ、そこは?
瑶子  えぇ、そうしましょう。

【学校、チャイムがなる】
賢人  ふぇぇ~やっと終わったあぁ!
亜唯子 何言ってるのよ、あんたは終わりでも私たちにはまだ午後の授業が
    残っているのよ。
賢人  へっへーんだ!お昼は何かなぁ~っと!
亜唯子 学食行かないの?
賢人  いや、瑶子さんと。
亜唯子 いいなぁ!私も行きたい~~!
賢人  ばーか、俺は仕事の手伝いなの、おわかり?
亜唯子 あんたなんかより、あたしの方がよっぽど役に立つと思うんだけ
    どなぁ!
賢人  あのね。あ、やばい行かなきゃ、んじゃノート宜しく!
亜唯子 何言ってるのよ!
賢人  明日ケーキおごるから!
亜唯子 クッキーもつけてやるからねっ!
真喜子 相変わらず仲良いわね、亜唯子と及川君って。
亜唯子 真喜子ったらよく言うわ。
    本当は賢人と仲良くなりたいくせに?
真喜子 やだ、ちょっと!大きな声で言わないでよ!
亜唯子 ……図星?
真喜子 ……内緒にしておいてよ。結構及川君って人気あるんだからね!
亜唯子 うそ、あんなやつが!?
真喜子 亜唯子はいっつもツルんでるから気付かないだけよ!
    背は高いし、顔もイケてるし、性格だって優しいし!
亜唯子 ……なんか吐き気がしてきた
真喜子 酷ーい!
亜唯子 真喜子、あんた眼鏡かコンタクトしたら?どこがイケてる顔?
    性格なんてきっついだけじゃない!
真喜子 だって、あんたもキツいもん。
亜唯子 だって、アイツ見てると手が掛かる弟みたいで……
真喜子 はいはい。あ、でもホント内緒にしておいてね!
亜唯子 了解。あ、学食混んじゃう!早く行こう!
真喜子 あ、ちょっと待ってよー!

【人混みの中、イタメシ屋】
賢人  汐見先生、よくこんな店知ってたねぇ!んまい、んまい!
瑶子  ちょっと賢人!
    食べるか喋るかどちらかにしなさい!
賢人  教育ママみてぇ。
瑶子  誰があんたのママよ。こんな年頃のいい女捕まえて。
賢人  へーっ!いい女ねぇ?
汐見  瑶子がいい女かどうかは疑問だな。
賢人  だよなー!やっぱり先生とは話が合う!
瑶子  2人とも失礼ね!これでも道を歩けばナンパされたりするのよ!
汐見・賢人 え。
瑶子  本庁では結構有名なんですから。
賢人  がさつで?
汐見  強くて?
瑶子  ふーたーりーとーもー!?
    弘也、このお店公費で落とすつもりだったけど、止めるわ。
    貴方のおごりね。
汐見  えっ!
瑶子  賢人、今回ただ働きね。
賢人  うっそーひでぇ!
    うら若き青少年捕まえてタダかよ!
瑶子  健全な青少年ならもちろん「ボランティア」よねぇ?
賢人  うっそ、詐欺だぁ!
汐見  何、お前、仕事の手伝いする度に小遣い貰ってるのか?
賢人  あぁ、瑶子さんのポケットマネーからね。
汐見  瑶子、それ法律……
瑶子  あら、汐見センセ?人の事言えて?
汐見  ぐっ……賢人、今回は俺たちの負けだ。
賢人  ちぇっ!
    ところでさ、今回は一体何なの?
瑶子  それは弘也の病院に行ってからにしましょ。
    こんな所で見るものじゃないわ。
賢人  ふぅ~ん。
汐見  賢人も随分力をコントロール出来るようになったんだな。
賢人  まぁね。だって、下手するとすーぐ瑶子さんの鉄拳グーが飛んで
    くるんだぜ。コントロール覚えなきゃ、俺ボロボロになっちまう
    よ!
瑶子  何よ、人の大事なバカラのシャンパングラスセット、粉々にしたク
    セに!高い代償こっちも払ったんだもの、少々痛い目にあっても
    仕方ないでしょ。
賢人  ……って事だよ、汐見先生。
汐見  なるほど、瑶子がどれだけ怖い人かがよく分かった気がするよ。
瑶子  ひーろーやーー!!
汐見  ははは、嘘だよ、嘘。さて、そろそろ行こうか。
賢人  今日は有香さんも小夜子さんも来てるの?
汐見  いや、今日は休診日だから休みだよ。あ、でも峰山さんは何か用事      
    があるとかで出てくるって言ってたな。
賢人  やーりぃ!じゃぁ小夜子さんにお茶入れてもらおーっと!
汐見  あぁ、来ていたら淹れて貰おう。彼女のいれる紅茶は美味しいから
    ね。
瑶子  ホント?楽しみだわ。

  【室内・西島家】
有香  ねぇ……兄さん。
仁   何だい、有香。
有香  この間……ちゃんと本は片付けてね、って……言ったでしょう?
仁   あっ!
有香  ねぇ、ちゃんと片付けるって言ったじゃない?ちゃんと私の言いつ
    けは守るって約束したじゃない!?どうして守れないの?
    ねぇ、ほら、本も泣いてるじゃない!ほら、ほら!!
仁   ごめん、ごめんよ、有香!僕が悪いんだ!有香の言いつけを守れな
    かった僕が悪いんだ、ごめんよお、ごめんよ!
有香  ねぇ、今度は守れるわよねぇ?私の兄さんだもの。ちゃんと約束は
    守れる人よねぇ……?
仁   ああ、ちゃんと守るよ、有香との約束だもの。
有香  やっぱり私の兄さんだわ……
仁   有香……。
有香  仁(ひとし)兄さん。愛しているわ……。
仁   僕も愛しているよ、有香。
有香  さぁ、兄さん、学校に遅れるわ。
仁   うん、行ってくるよ。今日こそは実験体を探さなきゃ……
    いつか有香にも見せてあげるよ、超能力は存在するってことを……
有香  えぇ。楽しみにしているわ、愛しい兄さん……。

  【汐見病院入り口】
小夜子 あら、先生、お帰りなさい。
汐見  なんだ、峰山さん、もう来てたんだ。
小夜子 えぇ、ちょっとお薬の在庫の確認をしていたんですけれど……
汐見  どうした?
小夜子 鎮痛剤の数が合わないんです。
汐見  変だな……西島君が知ってるかもしれないから、また明日にでも確
    認してみよう。
小夜子 はい。あら、賢人君!
賢人  へっへー!こんにちは、小夜子さん!
瑶子  こんにちは。
小夜子 あら、生島さんまで。
汐見  ちょっと彼女の仕事の事でね。
小夜子 あぁ、あの……わかりました、お茶でも入れてきますね。
賢人  俺、紅茶がいいな!
瑶子  私も。賢人が峰山さんの淹れる紅茶が美味しいって言うの。
小夜子 あらやだ、そういって頂けると嬉しいわ。じゃ、とっておきの紅
    茶、淹れてきましょうね。
賢人  やったね!
汐見  済まないが、診察室にお願いできるかな。
小夜子 はい、わかりました。
賢人  あれ、応接行くんじゃないの?
瑶子  見て欲しい写真ってもしかして
汐見  あぁ、X線レントゲン写真だよ。

  【診察室の中】
汐見  見てもらいたいのは、このレントゲン写真なんだ。
瑶子  ……これは!
汐見  この患者は4日前、救急でうちに運び込まれてきたんだ。
    うちは救急指定病院じゃないんだが、どうもこの患者がうちを指定     
    したらしい。
賢人  そんなこと出来るのかよ。
瑶子  えぇ、場合によってはね。例えば何か持病を持っていて、その発作
    が起きたとするでしょう。そうしたら普通に救急病院に搬送するよ
    り、かかりつけの医師に回した方がいい場合とかあるの。
賢人  ふーん。
汐見  本人曰く、名前は桐山というらしい。下の名前はわからない。ここ
    へ搬送されてくるときに、救急隊員にそう名乗ったそうだ。だが、
    うちのカルテに桐山という名前の患者はいない。
瑶子  変ね……ここのすぐ傍だった、とかって訳ではないんでしょう?
汐見  あぁ、隣町の3丁目にあるアパートから電話があったそうなんだ。
    患者の年齢は大体50代から60代くらい、身長は170cm前後っ
    て所かな。中肉中背っていうやつだ。ここに到着した時にはもう手
    遅れだった。
瑶子  ……ってことは、この患者についてわかっているのはそれだけって
    事ね?
汐見  あぁ。
瑶子  しかし、凄いことになっているわね、この人の腕……どうやったら
    両腕を違う方向にねじ曲げることが出来るのかしら?
賢人  なんか、絞ったぞうきんみたいだよな。
汐見  正式な死因は出血多量によるショック死なんだが……。
瑶子  こんな状態にすることって可能なの?
汐見  やろうと思ったら、手足一本ずつに小さな竜巻でも起きなきゃ無理
    だな。
賢人  ……これは、俺みたいなのが絡んでるんじゃねぇかな。
瑶子  俺みたいな……?
賢人  あぁ、ちょっと試してみようか、俺はあんまり得意じゃないんだけ
    ど。
汐見  試すって……手が勝手にねじれ……くっ!!
瑶子  弘也!賢人、もういいわ!
汐見  ……なるほど……サイコキネシスってやつか……
賢人  そういうらしいね。
瑶子  じゃぁ犯人は、
汐見  そういう力を使える人間ってことだろう。
瑶子  そんなの、どうやって見分けるのよ!?貴方は念力を持っています
    んか、っていちいち聞いて回るわけ?!
賢人  そんなにかっかしなくても。
瑶子  あのね、賢人、犯人の絞り込みって凄く大変な作業なのよ!アリバ
    イから何から全部調べて行かなきゃならない。今回のようにどこの
    誰ともわからないような人間の場合、その交友関係なんかもなかな
    か判別できないの。
賢人  それ位知ってるよ、だから俺がいるんだろ?
汐見  その通りだ。このレントゲンから何か引き出せないか?
賢人  レントゲンじゃぁなぁ……着ていた服とかは?
瑶子  警察にあるはずよ。身元の解らない死体や不審な死体は全てうちが
    調べるから。
賢人  じゃぁ、とりあえず行ってみようぜ。
    見てみなきゃ始まらないだろ。
瑶子  そうね、行ってみましょう。

   【車に乗っている】
瑶子  弘也、あの被害者について、何か他に気付いたことはない?
汐見  そうだな……そうそう、古いけど結構良い服を着ていたんだ。
    確か、コートはバーバリーじゃなかったっけ……。
賢人  3丁目ってあのぼろアパートだろ?そんなとこに住んでるのにバー
    バリー?
汐見  あぁ、意外なんでちょっと驚いたのが印象に残っているね。
瑶子  何らかの事件が絡んでいるとみて良いでしょうね。
汐見  あぁ……あれ?瑶子、ちょっとそこで止めてくれないか?
瑶子  え?えぇ。
汐見  西島君!
有香  え?……あ、先生……お出掛けですか?
汐見  あぁ、ちょっとそこまでね。そちらは?
有香  え、あ、兄です……。
仁   西島仁です。いつも妹がお世話になっています。
汐見  いや、コチラこそよく仕事をしていただいて助かっているんです
    よ。
有香  そんな、先生……。
仁   ありがとうございます。僕が言うのも何ですが、有香は良い子なん
    で、今後とも宜しくお願いします。
汐見  こちらこそ……それより、お兄さん。かなり傷が酷いようだが……。
仁   !!……いや、たいしたことは。
有香  先生、大丈夫ですよ。ちょっと実験の時に猫に引っかかれたんです
    って。
汐見  あ、そうなのか?まぁ西島君が付いているんだから、手当も大丈夫
    だろうね。
仁   えぇ、もちろんです。
汐見  今、実験って仰いましたけれど、何か研究なさっているんですか?
仁   はい!大学で特殊能力について研究を行っています。
汐見  !特殊、能力ですか……?
仁   解りやすく言えば超能力です。本当に人間は手も触れずに物を動か
    すことができるのか、遠く多く離れた地にいる人のことを知ること
    ができるのか……そいううことを研究しています!人間の脳に隠さ
    れた部分とでもいいましょうか。
汐見  ……それは、凄い研究ですね。
仁   えぇ!!宜しければ一度実験を見にいらしてください。お気兼ねな
    くどうぞ。
汐見  ……ありがとう。あ、すまなかったね、出掛けるところを呼び止め
    て。
有香  いいえ、いいんです。それじゃ先生、また明日。
汐見  あぁ、じゃぁ失礼します。

   【車内】
瑶子  今の西島さんと……お兄さん?
汐見  あぁ。
瑶子  酷いケガしてたみたいだけど?
汐見  実験中に猫に引っかかれたんだってさ。
瑶子  嘘!青あざみたいなのが見えたわよ!
汐見  俺も違うと思う。一度病院に連れてくるにょうに行ってみよう。
瑶子  その方が良いでしょうね……賢人?
賢人  ……あの人、こないよ。
汐見  どういうことだ?
賢人  あれほど思考が変な方向に飛んでいくん人達ってあんまりいない
    よ。頭の中が凄く強くって、外へ発散しまくってるから、俺の所ま
    でとんできたよ。
汐見  何て飛んで来たんだ?
賢人  有香さん、お兄さんを殴ってる。今日は本だったみたいだ。
瑶子  !……酷い……
汐見  二人っきりの家族だと言ってたな……彼女、かなり強い何かを抱え
    ているのかもしれない。それに……
瑶子  それに?
汐見  お兄さん、仁さんか。超能力の研究をしているとか言っていたよ。
    それも何か絡んでいるのかもしれないな。
瑶子  超能力の研究……賢人、あの人に近付かないでね。
賢人  解ってるよ。頼まれたって近付きたくねぇよ。
瑶子  そう、それならいいの。
賢人  瑶子さん?
瑶子  もう。貴方があんな目に遭うのは見たくないのよ。
賢人  ……サンキュ……
瑶子  え、何?
賢人  何でもねぇよ!それよりさっさと仕事しようぜ!
汐見  賢人……そうだな。早いところ、奇妙なこととはおさらばだ。
瑶子  賛成。



第二話

第三話


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